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静止衛星通信(食・軌道・周波数・SCPC) えいせいつうしんのしょく

二陸特 一陸技

赤道上空約 36,000〔km〕の静止軌道にある通信衛星を使う通信で、一陸技では衛星の食・太陽雑音干渉・上り下りの周波数・中継器の電力増幅器(SCPC と入力バックオフ)が問われる。

試験ではここ

食は「春分及び秋分」の前後約 1 箇月、1 日に最長「70 分」程度。太陽雑音干渉はアンテナ径が大きいほど干渉量は大きく発生時間は「短く」なる。SCPC の電力増幅器は複数波を入れると相互変調積に電力を奪われて各波の飽和出力電力の「総和は減少」、入力バックオフは飽和「入力電力」P1 と全入力電力 P2 の比 P1/P2〔dB〕で、相互変調を減らすには「大きく」する。

静止衛星は赤道の真上を地球の自転と同じ速さで回るので、地上からは止まって見えます。基本は 静止衛星通信 の語にまとめてあります。ここでは一陸技で問われる「衛星の電力が止まる食」「太陽が邪魔をする雑音干渉」「上り下りの周波数の使い分け」「中継器の電力増幅器の使い方(SCPC とバックオフ)」に絞ります。

静止衛星の食が起きる時期
衛星の食。太陽が赤道面近くにある春分・秋分の前後は、静止軌道上の衛星が深夜に地球の影に入る。夏至・冬至は影が軌道から外れる
食の最長時間
t \approx \dfrac{\theta}{360^{\circ}} \times 24 \times 60 \approx \dfrac{17.4}{360} \times 1440 \approx 70\ \text{分}

θ は静止軌道から見た地球の影の角幅(半径 6,400〔km〕の地球を半径 42,000〔km〕の軌道から見た角度、約 17.4°)。衛星は 1 日で 360° 回るので、この角幅を横切る時間が最長の食時間。前後約 1 箇月(春分・秋分の各前後約 22 日)続く

食と太陽雑音干渉

  1. 食(eclipse) 衛星が地球の影に入り、太陽電池が発電できない。春分・秋分の日を中心に前後約 1 箇月、1 日に最長約 70 分。この間は搭載の蓄電池で運用するか、衛星の地方時の深夜に当たるので通信量の少ない時間帯になるよう軌道位置を選ぶ
  2. 太陽雑音干渉(サンアウテージ) 同じく春分・秋分の前後に、地球局アンテナから見て衛星の背後を太陽が通過する。太陽は強い雑音源なので受信 C/N が劣化する。アンテナ径が大きいほどビームが細く太陽がビーム内にいる時間は短いが、利得が高いので干渉量は大きい
太陽雑音干渉
太陽雑音干渉。地球局アンテナのビームの延長線上に太陽が来る。大口径ほどビームが細く通過時間は短い

周波数の使い分け

  1. C バンド 上り 6〔GHz〕/下り 4〔GHz〕。雨の減衰が小さく安定。アンテナは大きくなる
  2. Ku バンド 上り 14〔GHz〕/下り 12〔GHz〕。小型アンテナで済むが雨の減衰を受ける
  3. Ka バンド 上り 30〔GHz〕/下り 20〔GHz〕。広帯域だが雨の減衰が大きい
  4. 上りを高い周波数にする理由 高い周波数ほど減衰が大きい。地球局は大電力・大口径で損失を補いやすいが、衛星は電力と重量に制約があるので、下りに減衰の少ない低い周波数を割り当てる
上りと下りの周波数
上り(アップリンク)は高い周波数、下り(ダウンリンク)は低い周波数。中継器(トランスポンダ)で周波数を変換する
伝搬遅延
\tau = \dfrac{d}{c} \approx \dfrac{3.6 \times 10^{7}}{3 \times 10^{8}} = 0.12\ \text{s}

地球局から衛星までの片道が約 0.12〔s〕。地球局 → 衛星 → 地球局の 1 ホップで約 0.25〔s〕、会話の往復では約 0.5〔s〕の遅れになる。仰角が低い局ほど距離が長く遅延も大きい

SCPC(Single Channel Per Carrier)は 1 つの搬送波に 1 チャネルを載せ、多数の搬送波を周波数で並べて中継器の 1 台の電力増幅器(進行波管や固体増幅器)で一緒に増幅する方式です。増幅器を効率よく使うために飽和近くで動かすと、搬送波どうしの相互変調積が生じて帯域外に電力が漏れます。

電力増幅器の入出力特性とバックオフ
電力増幅器の入出力特性。単一波の飽和点から入力を下げた分が入力バックオフ。複数波では各波の飽和出力の総和が減る
入力バックオフ
\mathrm{IBO} = 10 \log_{10} \dfrac{P_1}{P_2}\ \text{〔dB〕}

P1 は単一波を入力したときの飽和入力電力、P2 は複数波の全入力電力。飽和出力電力を基準にしたものは出力バックオフ(OBO)。バックオフを大きくすると線形領域で動くので相互変調積は減るが、出力が下がり電力利用効率が落ちる

典型問題の解き方(食の穴埋めと SCPC の穴埋め)

手順

  1. 食の時期は「赤道面」で考える 静止衛星は赤道面上。太陽が赤道面近くに来るのは春分・秋分。夏至・冬至は太陽が赤道面から約 23.4° 離れるので影に入らない
  2. 最長時間は角幅から出す 地球の影の角幅 17.4° ÷ 360° × 1,440 分 ≒ 70 分。90 分や 60 分の肢は誤り
  3. 太陽雑音干渉はビーム幅で考える 大口径 → ビームが細い → 通過時間は短い、利得が高い → 干渉量は大きい
  4. SCPC は「相互変調積に電力を奪われる」 複数波の飽和出力の総和は減少。バックオフは飽和「入力」電力との比。軽減するにはバックオフを「大きく」。やり過ぎると効率低下
ひっかけ

「食は夏至・冬至」は誤りです。「アンテナ径が大きいほど太陽雑音干渉の時間は長い」も誤りで、長くなるのは干渉量(利得が高いため)です。「入力バックオフは飽和出力電力との比」は出力バックオフの説明で、問題文が「入力」と言っているなら飽和入力電力 P1 です。バックオフを「小さく」すると飽和に近づき相互変調が増えます。

実務・現場では

地球局の運用では、春分・秋分の前後に「食の時刻表」と「サンアウテージの予報」を確認します。食の間は衛星の電力が蓄電池だけになるので、衛星側で一部の中継器を落とすこともあります。サンアウテージは毎日数分、数日間続くため、重要回線は別の衛星や地上回線に切り替えます。

上部の看板「食は春分・秋分の前後 1 箇月、1 日最長 70 分
食は春分・秋分の前後 1 箇月、最長 70 分。太陽雑音は大口径ほど短く強い

この用語を押さえる問題

一陸技 ・ 日本無線協会 令和8年1月期 無線工学A 問10

次の記述は、対地静止衛星軌道における通信衛星の食等について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。なお、同じ記号の[ ]内には、同じ字句が入るものとする。 (1) 衛星の主電力は、太陽電池から供給される。静止衛星では、日照時に太陽電池から...

正答: A=春分及び秋分 B=70分 C=短く

正答。静止衛星は赤道面上にあるので、太陽が赤道面近くにくる春分・秋分の前後約 1 箇月間、衛星が地球の影に入る食が深夜に発生し、最長で 1 日約 70 分間(地球の影の角幅約 17.4° に相当)太陽電池が発電できない。同じ時期に太陽が地球局アンテナから見て衛星の背後を通過し太陽雑音干渉が起きるが、大口径アンテナほどビーム幅が狭いので発生時間は短く、利得が高いので干渉量は大きい。

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一陸技 ・ 日本無線協会 令和8年7月期 無線工学A 問13

次の記述は、SCPC 方式の衛星通信の中継器などに用いられる電力増幅器について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句を下の番号から選べ。なお、同じ記号の[ ]内には、同じ字句が入るものとする。 (1) 電力効率を良くするために増幅器が非線形領域で動作するように設計されて...

正答: A=総和は減少する B=入力電力 C=大きく

正答。複数波を入力すると非線形性により相互変調積に電力が奪われるため、帯域内の各波の飽和出力電力の総和は単一波のときより減少する。入力バックオフは、単一波で飽和させる入力電力 P1 に対し実際の全入力電力 P2 をどれだけ下げたかを示す比 P1/P2〔dB〕である。バックオフを大きくとれば線形領域で動作し相互変調積は減るが、出力電力が下がって電力利用効率が低下する。

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一陸技 ・ 日本無線協会 令和8年7月期 無線工学B 問17

次の記述は、地上と衛星間の電波伝搬における対流圏及び電離圏の影響について述べたものである。このうち誤っているものを下の番号から選べ。

正答: 電離圏の屈折率は、周波数が低くなると 1 に近づく。

誤った記述です。電離圏の屈折率は n = √(1 − 81N/f²) で表され、周波数 f が高くなるほど 81N/f² が小さくなって n は 1 に近づきます。周波数が低くなると n は 1 から離れて小さくなり、屈折や反射の影響が大きくなります。

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問われた問題 15

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