移動体通信の伝搬(マルチパス・遅延スプレッド・レイリー) いどうつうしんのでんぱん
建物の反射・回折で多数の波が届くマルチパス環境を移動局が走るときの受信レベルの変動。λ/2 で激しく変わる瞬時変動(レイリー分布)、数十波長で平均した短区間中央値(対数正規分布)、距離で決まる長区間中央値(Xd⁻ᵅ)の 3 層で捉える。
穴埋めで「瞬時変動はレイリー分布則」「数十波長の中央値が短区間中央値、それが対数正規分布で変動した中央値が長区間中央値」「長区間中央値は Xd⁻ᵅ」「到来時間差で帯域内の変動が一様でないのが周波数選択性フェージング」。変動は「周波数が高いほど、移動速度が速いほど」速い。工学A ではランダム FM 雑音・最大比合成・RAKE はパスダイバーシティ、として出る。
街の中では基地局からの電波が直接届くことはまれで、ビルの壁で反射し、角で回折した何十本もの波が少しずつ違う経路を通って届きます。足し合わさった波は場所ごとに強め合ったり打ち消し合ったりして、空間に定在波の模様を作ります。その中を車が走ると、半波長ごとに受信レベルが数十 dB も上下します。これが瞬時変動です。さらに経路の長さの差は時間の差になり、速いデータでは前のシンボルが次のシンボルに重なる波形ひずみ(符号間干渉)を起こします。

受信レベル変動の 3 層

自由空間なら α = 2(距離 2 倍で −6 dB)、市街地では α ≒ 3〜4(距離 2 倍で −9〜−12 dB)。奥村・秦の式はこの X と α を周波数・アンテナ高で与えたもの
v は移動速度〔m/s〕、f は搬送波周波数。瞬時変動の速さは fd で決まり、Tc(コヒーレンス時間)より短い時間なら伝搬路は変わらないとみなせる。速い変動では位相の揺らぎがランダム FM 雑音になり、受信レベルを上げても誤り率が下がらない
στ は伝搬遅延プロファイル(横軸: 遅延時間、縦軸: 受信レベル)の広がりの標準偏差(遅延スプレッド)。信号の帯域が Bc より狭ければ帯域内が一様に落ちる(フラットフェージング)、広ければ周波数ごとに違う落ち方をする周波数選択性フェージングになり波形ひずみが出る

典型問題の解き方(2〔GHz〕・108〔km/h〕で走る移動局の最大ドプラ周波数と、遅延スプレッド 1〔µs〕の伝搬路で使える帯域)
手順
- 速度と波長をそろえる v = 108〔km/h〕= 30〔m/s〕、λ = 3×10⁸/(2×10⁹) = 0.15〔m〕
- 最大ドプラ周波数 fd = v/λ = 30/0.15 = 200〔Hz〕。λ/2 = 7.5〔cm〕を 2.5〔ms〕ごとに通るので、受信レベルは 1 秒に数百回落ち込む
- コヒーレンス帯域 Bc ≒ 1/(2π × 1×10⁻⁶) ≒ 160〔kHz〕
- 判定 帯域 20〔kHz〕の狭帯域音声ならフラットフェージングで波形ひずみはほぼ無い。帯域 5〔MHz〕の高速デジタル伝送は周波数選択性フェージングを受けるので、等化器や OFDM(シンボルを長くして GI で遅延波を吸収)が必要。令和8年の 2 期はこの計算は出ておらず、穴埋め(レイリー・短区間/長区間・周波数選択性)で出た
短区間と長区間を逆にする肢が定番です。「数十波長」の短い区間で平均したものが短区間中央値、距離 d で決まる Xd⁻ᵅ は長区間中央値です。瞬時変動の電界強度(包絡線)はレイリー分布で、指数分布に従うのは電力です。「跳躍性フェージング」は短波の電離層伝搬の用語で、陸上移動の遅延差によるものは周波数選択性フェージングです。ランダム FM 雑音は受信レベルを上げても消えず、RAKE 受信はパスダイバーシティ、S/N で重み付けして同相加算するのは最大比合成です。

この用語を押さえる問題
次の記述は、陸上の移動体通信の電波伝搬特性について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。なお、同じ記号の[ ]内には、同じ字句が入るものとする。 (1) 基地局から送信された電波は、陸上移動局周辺の建物などによるマルチパス環境下で、反射...
正答: A=レイリー分布則 B=短区間 C=長区間 D=周波数選択性
正しい組合せです。見通し外のマルチパス環境で多数の到来波が合成された受信波の包絡線はレイリー分布に従い、これが瞬時変動です。これを数十波長程度の区間で平均した短区間中央値は対数正規分布に従って変動し、その中央値である長区間中央値は距離 d に対して Xd⁻ᵅ で近似されます。到来波の遅延時間差により帯域内の周波数ごとに振幅・位相の変動が異なるのが周波数選択性フェージングで、広帯域の高速デジタル伝送で波形ひずみ(符号間干渉)の原因になります。
この問題を解く次の記述は、フェージング対策等に利用されるダイバーシティの原理について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。 (1) フェージング伝送路では、受信レベル低下による C/N 劣化(熱雑音誤り)、ランダム FM 雑音による位相変動、周波数選...
正答: A=ランダム FM 雑音 B=最大比合成 C=パス
正答。ランダム FM 雑音はフェージングによる受信波の位相の速い揺らぎが周波数変動として現れるもので、受信レベルを上げても消えないため誤り率の下限(フロア)を生む。最大比合成は各ブランチを S/N に比例した重みで同相加算し、理論上最良の合成後 S/N を得る。RAKE 受信はマルチパスの各パスをフィンガで分離して合成するのでパスダイバーシティに分類される。
この問題を解く次の記述は、デジタル無線方式に用いられるフェージング補償(対策)技術の一般的な特徴について述べたものである。このうち誤っているものを下の番号から選べ。
正答: フェージングにより発生する誤りはある程度バースト性をもっているので、バースト誤りに強い BCH 符号の利用や、畳み込みとランダム誤り訂正を組み合わせてバースト誤りをランダム化し誤り訂正することが効果的である。
誤り(これが正答)。BCH 符号はランダム誤りの訂正に向く符号であり、バースト誤りに強いのはリードソロモン符号などである。また、バースト誤りをランダム化してランダム誤り訂正符号で訂正するために組み合わせるのは「畳み込み」ではなく「インターリーブ」である。
この問題を解く次の記述は、我が国の地上系デジタル放送の標準方式(ISDB-T)に用いられているインターリーブについて述べたものである。このうち誤っているものを下の番号から選べ。
正答: 周波数インターリーブは、マルチキャリアを周波数拡散変調させることで、マルチパス等により特定のサブキャリアの信号レベルが著しく低下する周波数選択性フェージングを改善している。
誤り(これが正答)。周波数インターリーブは各サブキャリアを「周波数拡散変調」するのではなく、連続するキャリアシンボルを周波数方向に並べ替えて分散させる操作である。これにより周波数選択性フェージングで一部のサブキャリアが落ち込んでも、誤りが連続せず誤り訂正が効きやすくなる。
この問題を解く問われた問題 5
- 一陸技 令和8年7月期 問12 次の記述は、フェージング対策等に利用されるダイバーシティの原理について述べたものである。[ ]内に入れるべ...
- 一陸技 令和8年7月期 問4 図に示す 16QAM 変調器の原理的な構成例に関する次の記述のうち、誤っているものを下の番号から選べ。
- 一陸技 令和8年1月期 問17 次の記述は、陸上の移動体通信の電波伝搬特性について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せ...
- 一陸技 令和8年1月期 問13 次の記述は、デジタル無線方式に用いられるフェージング補償(対策)技術の一般的な特徴について述べたものである...
- 一陸技 令和8年1月期 問2 次の記述は、我が国の地上系デジタル放送の標準方式(ISDB-T)に用いられているインターリーブについて述べ...