無線通信ブートラボ
第1回

電波の中に、声はどこにある?

何も入っていない受信機の箱に 999 kHz の AM 波を入れ、観測端子から中をのぞく。細かい振動と、音声の形に動く大きな輪郭を分けて見る。
この回でつくる

この回でつくるのは、受信機の「箱」と、電波を入れる模擬アンテナ入力、そして中の様子をのぞく観測端子だけです。部品はまだ何も入れません。まず、電波の中に声がどんな姿で入っているのかを、自分の目で見ます。

前回の困りごと

第1回なので「前回」はありません。そのかわり、このシリーズを始める前の困りごとを書いておきます。受信機の教科書を開くと、最初のページにスーパーヘテロダイン受信機のブロック図が載っていますね。高周波増幅器、周波数混合器、局部発振器、中間周波増幅器、検波器、低周波増幅器。名前を 6 つ覚えて、順番を覚えて、試験が終わると忘れる。これが多くの人の挫折の形です。

このシリーズでは逆から行きます。まず何も入っていない箱に電波を入れて、聞こえないことに困り、困ったぶんだけ部品を 1 つ足す。足した部品に、あとから教科書の名前をつける。16 回かけて、最後は実際の放送をあなた自身の受信機で聞きます。

予想してから、1つ足す

今日足すのは、模擬アンテナ入力と観測端子です。模擬アンテナ入力は、送信所から届く電波のかわりに、教材用の信号を作ってくれる装置だと思ってください。設定は、搬送波の周波数が 999 kHz、載せる音声は上限 3 kHz までの短いナレーションです。この設定はシリーズを通して使うので、999 kHz という数字を覚えておいてください。

足す前に予想してみましょう。999 kHz というのは 1 秒間に 99 万 9 千回の振動です。人の耳が聞ける音は、高くてもおよそ 20 kHz まで。では、この速い振動のどこに「声」が入っていると思いますか。振動の速さが声に合わせて変わっているのでしょうか。それとも別のところでしょうか。頭の中で答えを 1 つ決めてから、次へ進んでください。

進め方を 3 通り用意しています。基本はシミュレータで、この文章の設定をそのまま入れれば同じ波形が出ます。実物派の人は、AM 出力つきの信号発生器とオシロスコープがあれば同じ観察ができます。道具がない人は、文章と図を見ながら頭の中で波を描いてください。どの進め方でも、毎回の末尾に「聞こえたもの・見えたもの・まだ困ること」を自分の言葉で 1 行ずつ書き残すのが約束です。

今日の受信機(第1回)
今日の受信機。模擬アンテナ入力(橙)と観測端子(青)だけ。箱の中はまだ空

動かしてみる

観測端子にオシロスコープをつなぎ、まず音声だけを見ます。ゆっくりした、なめらかな波です。次に搬送波だけ。こちらは 999 kHz の細かい振動で、高さがずっと同じです。最後に、搬送波に音声を載せた波を見ます。細かい振動はそのまま 999 kHz で続いているのに、振動の「高さ」が、音声の波の形どおりに太くなったり細くなったりしています。

オシロスコープ画面の一点から縦軸と横軸へ補助線を引き、振幅・周期・瞬時値を別々の注釈で示した図。
この縦軸は電圧、横軸は時間。振幅・周期・瞬時値は別の量。混ぜない
声を載せる前・載せた後
声を載せる前・載せた後。上段が音声、中段が搬送波、下段が音声を載せた AM 波

ここで時間軸を縮めてみます。1 kHz の音を 1 周期だけ、つまり 1 ms の幅で表示すると、その間に搬送波はちょうど 999 回振動しています。細かい振動の山の先端を結ぶと、音声とそっくりの大きな輪郭が浮かび上がります。この輪郭が「声の居場所」でした。声は振動の速さではなく、振動の大きさの変化として入っていたのです。

細かい波と大きな輪郭
細かい波と大きな輪郭。搬送波 1 周期は約 1 μs、音声 1 周期は 1 ms。山の先端を結んだ線が包絡線

模擬アンテナ入力には「変調度」というつまみがあります。0 % にすると輪郭はまっすぐで、搬送波だけになります。50 % にすると、振幅がもとの 1.5 倍から 0.5 倍の間で動きます。100 % にすると、最小の瞬間には振幅がゼロまで細くなります。つまみを上げるほど、輪郭の動きが大きくなるのが分かります。

変調度つまみ
変調度つまみ。無変調(0 %)・50 %・100 % の AM 波を並べる。100 % ではくびれがゼロに触れる

もう一つ試しておきたいことがあります。搬送波の周波数を 999 kHz から 1,500 kHz に変えてみます。細かい振動はさらに細かくなりましたが、大きな輪郭はまったく変わりません。つまり、搬送波を高くしても声は高くなりません。「周波数が高い電波だから、高い音が聞こえる」という思い込みは、ここで捨てておきましょう。

観測端子の表示を「時間」から「周波数」に切り替えてみます。横軸が周波数のスペクトル表示です。搬送波だけのときは 999 kHz に 1 本の縞が立ちます。1 kHz の音を載せると、その両脇、998 kHz と 1,000 kHz に小さな縞が 2 本現れます。3 kHz までのナレーションを載せると、両脇の縞は 996 kHz から 1,002 kHz までの帯になります。声は時間の表示では包絡線として、周波数の表示では搬送波の両脇の帯として見えます。同じものの 2 つの見え方です。

同じ AM 波を、点を粗く取って結んだ偽のまだら模様の表示と、区間の最小・最大で塗った正しい表示で比べた図。
まだら模様は、本当にある波? 広い窓で見えるうねりは表示の都合で生まれた形
時間の窓を広げる
時間の窓を広げる。同じ AM 波を 10 μs・1 ms・10 ms の 3 つの時間幅で表示。窓を広げるほど搬送波は塗りつぶされ、包絡線だけが見える
やってみよう

シミュレータでは、観測端子を選んで「音声」「搬送波」「AM 波」を切り替えてください。変調度を 0・50・100 % に動かし、各時点での最大振幅と最小振幅を読み取ってメモします。実物派の人は、信号発生器の AM 出力をオシロスコープで見るだけで同じ観察ができます。頭の中で追う人は、「細かい縞模様の、上下の縁をなぞった線」を想像してください。

名前をつける

見えたものに名前をつけます。999 kHz の細かい振動が 搬送波、載せたい音声が 信号波、音声を載せたあとの波が 変調波 です。信号波に合わせて搬送波の振幅を変える方式を振幅変調(AM)と呼びます。そして、変調波の山の先端を結んだ大きな輪郭が 包絡線 です。今日の実験で「声の居場所」だと分かったのは、この包絡線でした。

単一正弦波で変調した AM 波
v(t)=A_c\{1+m\cos(2\pi f_m t)\}\cos(2\pi f_c t)

右端の cos(2πf_c t) が搬送波(f_c = 999 kHz)。その前の中かっこが「振幅を 1 のまわりで m だけ揺らす」部分で、f_m が音声の周波数。中かっこの値が時間とともに 1+m と 1−m の間を往復する。これが包絡線

式の中の m が、つまみで動かした変調度です。波形から読み取るには、包絡線の最大値と最小値を使います。

包絡線から求める変調度
m=\frac{E_{\max}-E_{\min}}{E_{\max}+E_{\min}}\qquad(0\le m\le 1)

E_max は包絡線がいちばん太いところの振幅、E_min はいちばん細いところの振幅。分子が「揺れ幅」、分母が「平均の 2 倍」。百分率で言うときは 100 倍する。E_min = 0 なら m = 1、つまり 100 %

さっきの 50 % の波形で確かめましょう。搬送波の振幅を 1 V とすると、最大は 1.5 V、最小は 0.5 V でした。式に入れると、分子は 1.0、分母は 2.0 で、m は 0.5。つまみの表示と一致します。m を 1 より大きくすると包絡線が一度ゼロを突き抜けて折り返してしまい、もとの音声の形が崩れます。これを過変調と呼び、送信側で避けるべき状態です。

一つの包絡線に E_max と E_min の測定線を引き、その差と和を帯で示して変調度の式の分子と分母へ結んだ図。
変調度を測る二本のものさし。差が分子、和が分母。1.0 ÷ 2.0 で m = 0.5

スペクトルで見えた両脇の帯にも名前をつけておきます。搬送波の上と下に、音声の周波数のぶんだけ離れて現れる成分が側波帯です。音声の最高周波数が 3 kHz なら、側波帯は搬送波から上下 3 kHz、合計 6 kHz の幅を占めます。声はこの 6 kHz の帯の中にいます。この幅は第7回で、受信機がどこまで狭く絞れるかを決める主役になります。いまは「999 kHz の 1 本ではなく、両脇に幅がある」とだけ覚えておいてください。

最後に、搬送波と音声の「速さ」をそろえて見る道具として、周期と周波数の関係を置いておきます。

周期と周波数
T=\frac{1}{f}

f が 999 kHz なら T は約 1.001 μs。f が 1 kHz なら T は 1 ms。音声 1 周期のあいだに搬送波が 999 周期入るのは、この比がそのまま 999 だから

無線技士の女性の先生が、オシロスコープの画面を指している
先生の挿絵。オシロスコープの AM 波を指して「声は振動の速さじゃなくて、太さの変化の中にいるの」

試験ではこう出る

試験ではここ

変調度の計算は、3アマ・4アマ・2陸特の無線工学で、オシロスコープの波形図を見て m を求める形で出ます。読み取るのは包絡線の最大値と最小値だけです。たとえば搬送波の振幅が 100 V で変調度が 60 % なら、最大値は 100×(1+0.6)=160 V、最小値は 100×(1−0.6)=40 V。逆に最大 160 V と最小 40 V が図にあれば、(160−40)/(160+40)=0.6 で 60 % です。一陸技の工学 A では、スペクトルアナライザで搬送波と側波帯のレベル差から変調度を求める問題も出ます。基礎では T=1/f の単位換算(kHz と μs)が計算問題の途中に埋め込まれます。

ひっかけ

波形図の縦軸が「振幅」ではなく「山から谷までの高さ(峰峰値)」で描かれていることがあります。峰峰値で読んでも、分子と分母の両方が 2 倍になるので m の値は変わりません。あわてて半分にしてから計算し直す必要はないのですが、片方だけ半分にすると間違えます。両方とも同じ基準で読む、が約束です。

今日の結果

第1回の記録

  • 聞こえたもの まだ何も聞こえません。観測端子にスピーカーをつないでも、999 kHz の振動は耳に届かず、音声の輪郭だけでは音になりませんでした
  • 見えたもの 音声に合わせて AM 波の外形(包絡線)が動く様子。変調度 0・50・100 % での最大値と最小値。搬送波を 1,500 kHz に変えても包絡線は変わらないこと
  • まだ困ること 声の居場所は包絡線だと分かった。でも、この輪郭だけを取り出す方法が分からない

次回は、この波の「外側だけをなぞる」部品を 1 つ足します。ダイオード 1 本とコンデンサ 1 個で、初めて声が戻ってきます。

この回で解けるようになる問題

本文の「例題No.」は公益財団法人日本無線協会が公表している CBT 方式の国家試験の例題、「過去問」は同協会の公表試験問題です(日本無線協会 試験問題。同協会の利用条件に基づき掲載)。「オリジナル」は当サイトの作問です。

3アマ ・ 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.2 問20

図は、単一正弦波で振幅変調した波形をオシロスコープで測定したものである。変調度は幾らか。

この問題を解く
二陸特 ・ 日本無線協会 令和2年2月期 無線工学 問19

図は、振幅が 100〔V〕の搬送波を単一正弦波で振幅変調したときの変調波の波形である。変調度が 60〔%〕のとき、振幅の最大値 A の値は幾らか。

この問題を解く
4アマ ・ 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.2 問14

図は、振幅が一定の搬送波を単一正弦波で振幅変調した変調波(A3E)の波形である。このときの変調度は幾らか。

この問題を解く
一陸技 ・ 日本無線協会 令和8年7月期 無線工学A 問18

次の記述は、スペクトルアナライザを用いた AM(A3E)送信機の変調度測定の一例について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。ただし、搬送波振幅を A〔V〕、搬送波周波数を fc〔Hz〕、変調信号周波数を fm〔Hz〕、変調度を ma×...

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