前回の困りごと
前回、999 kHz の AM 波を 455 kHz へ運ぶことができました。どの局を選んでも、ミキサの出口では搬送波が 455 kHz に揃います。ところが出口には、和の成分 2,453 kHz、元の 999 kHz と 1,454 kHz の漏れ、それに隣の局も一緒に並んでいました。中波の放送局は 9 kHz 間隔で並んでいるので、999 kHz の隣には 990 kHz と 1,008 kHz の局がいます。この 2 局はミキサで 464 kHz と 446 kHz に運ばれ、455 kHz の希望局のすぐ両脇に座ります。運ぶことはできた。でも、まだ選べていません。
予想してから、1つ足す
今日足すのは、455 kHz の周りだけを通す帯域フィルタです。中心周波数は 455 kHz に固定。動かすのは帯域幅のつまみだけです。予想してください。帯域幅はどれくらいが良いでしょう。「希望局の搬送波 455 kHz だけ残せば、いちばん混信が少なくて良いはず」と考えた人は、その予想を覚えておいてください。実験で確かめます。

図を見てください。入口の同調回路は、第4回で付けた可変の門です。局に合わせてつまみで動かします。今日足す IF フィルタは、動かしません。どの局を聞くときも 455 kHz に居座ります。「動く入口」と「固定の IF」。この役割分担が、今日の受信機の肝です。
動かしてみる
まず、フィルタの通過帯域幅を 30 kHz(440〜470 kHz)にします。スペクトルを見ると、和の成分 2,453 kHz と、元の 999 kHz、1,454 kHz の漏れはきれいに消えました。でも 446 kHz と 464 kHz の隣接局は、まだ帯域の中にいます。音を聞くと、希望局の声の後ろで隣の局が重なって聞こえます。第3回で複数局を入れたときの、あのざわざわした感じです。
帯域幅を 6 kHz(452〜458 kHz)に狭めます。隣接局の搬送波 446 kHz と 464 kHz は帯域の外へ出ました。音を聞くと、後ろのざわざわが消えて、希望局の声だけがはっきり聞こえます。声の質も、第2回で初めて戻ってきたときと変わりません。ここまでは、予想どおり「狭めるほど良い」ですね。


では、もっと狭めましょう。帯域幅を 1 kHz(454.5〜455.5 kHz)にします。混信はもちろんありません。でも、声がこもります。サ行の音や高い音が消えて、電話の向こうで布をかぶせて話しているような音になります。さらに狭めて、ほんとうに搬送波 455 kHz だけを残すと、スピーカーからは何も聞こえません。包絡線を見ると、平らな直線です。声の情報は、搬送波そのものには載っていなかったのです。

声はどこにいたのでしょう。スペクトルをもう一度見てください。455 kHz の搬送波の左右に、3 kHz まで広がる低い成分がついていましたね。これが側波帯で、声の周波数成分がここに写っています。音声の 1 kHz の成分は 454 kHz と 456 kHz に、3 kHz の成分は 452 kHz と 458 kHz にいます。帯域幅 1 kHz のフィルタは、500 Hz より高い声の成分を全部削ってしまったので、こもったのです。


最後に、帯域幅は同じ 6 kHz のまま、フィルタの「肩」の形を変えてみます。単一の共振回路で作った山なりの特性と、何段も重ねて作った角の立った特性です。6 dB 下がる幅はどちらも 6 kHz。でも 9 kHz 離れた隣接局の搬送波の減衰は、山なりの単一共振では約 10 dB しかなく、角の立ったフィルタでは 40 dB を超えます。音を聞くと、山なりの方では隣の局がかすかに残ります。選択度は帯域幅の数字だけでは決まらないのです。

シミュレータの IF 帯域幅つまみを 30 → 6 → 1 kHz と順に動かし、そのたびに音を聞いて、検波後の音声スペクトルを見てください。どの帯域幅で隣接局が消え、どの帯域幅から声の高い成分が消え始めるかを探します。できれば 6 kHz と 4 kHz の間で、音質と混信の折り合いを自分の耳で決めてみてください。
名前をつける
ミキサの出口で揃った 455 kHz を中間周波数と呼び、英語の intermediate frequency を略して IF と書きます。IF の帯域フィルタと、次回以降に足す増幅器を合わせて、中間周波増幅器と言います。受信機が「希望局のすぐ近くの局をどれだけ退けられるか」を選択度と呼び、特に隣の局に対する選択度を近接周波数選択度と言います。これは今日のフィルタでほぼ決まります。一方、「元の声をどれだけ忠実に再現できるか」を忠実度と呼びます。帯域を狭めすぎて声がこもったのは、忠実度が落ちたということです。
AM 波が占める幅は、音声の最高周波数の 2 倍。搬送波の上と下に、同じ幅の側波帯が 1 つずつあるから。音声上限 3 kHz の教材信号なら 6 kHz
上側と下側の側波帯には、同じ声の情報が写っています。では片方だけでよいのでは、と思うかもしれません。片側だけ残しても検波はできますが、包絡線検波器で元の形を正しく取り戻すには、両方そろっていることが前提です。片側を削ると包絡線がゆがみ、音が変わります。この性質を利用して片側だけを送る方式が、別の回で扱う SSB です。
実際のフィルタには、通過帯域から減衰帯域へ移る「遷移帯域」があります。6 dB 下がる幅と 60 dB 下がる幅の比をシェープファクタと呼び、1 に近いほど角が立っています。今日の実験で見た単一共振の山なりは、シェープファクタが大きい、つまり肩がゆるい特性でした。だから 6 kHz の帯域幅だけで隣接局排除が決まるわけではありません。

ここで、第4回の困りごとに戻ってみましょう。入口の同調回路は局ごとに動くので、鋭い特性を何段も揃えて連動させるのは大変でした。IF フィルタは 455 kHz に固定なので、その周波数専用に作り込んだセラミックフィルタや水晶フィルタを何段でも重ねられます。中心周波数がずれる心配もありません。「選局の仕事をいつも同じ周波数でやる」と第5回で言ったご利益は、ここで初めて形になりました。
60 dB 減衰する幅を 6 dB 減衰する幅で割る。理想の矩形なら 1。単一共振回路では 10 を超えることもあり、多段のセラミックや水晶のフィルタで 2 前後まで下げる
動く入口、固定の IF
| RF 同調回路(第4回) | IF フィルタ(今日) | |
|---|---|---|
| 中心周波数 | 局に合わせて動く(594〜1,620 kHz) | 455 kHz に固定 |
| 帯域幅 | 同じ Q なら中心周波数に比例して変わる | いつも同じ。6 kHz に作り込める |
| 何段重ねられるか | 連動が必要で、段数を増やしにくい | 固定なので多段のセラミック・水晶フィルタが使える |
| 担当する混信 | 離れた周波数(次回の影像周波数) | 隣の局(近接周波数選択度) |

試験ではこう出る
陸特と4アマでは「近接周波数に対する選択度に最も影響を与えるもの」が出ます。答えは中間周波増幅器(その帯域フィルタ)です。3アマでは、中間周波増幅器の働きとして「中間周波数の信号を増幅するとともに、近接周波数の妨害を除去する」という穴埋めが出ます。選択度の定義そのものを問う問題もあり、「多くの電波の中から目的の電波だけを選び出す能力」を選びます。工学Aでは AM の占有周波数帯幅が音声最高周波数の 2 倍であること、つまり今日の 2 × 3 = 6 kHz の計算が土台になります。
「中間周波増幅器の帯域幅は狭いほどよい」は誤りです。側波帯まで削ると忠実度が落ち、声がこもります。逆に「選択度は高周波増幅器で決まる」も誤り。隣の局を退けるのは IF 側です。高周波増幅器の担当は次回の影像周波数と、信号対雑音比の改善です。
今日の結果
今日の結果
次回は、この「遠いのに通ってくる局」の正体を追います。局発 1,454 kHz を挟んで 999 kHz の反対側にいる 1,909 kHz は、ミキサでやはり 455 kHz に落ちます。IF フィルタでは分けられない理由と、変換する前に止める方法を学びます。
この回で解けるようになる問題
本文の「例題No.」は公益財団法人日本無線協会が公表している CBT 方式の国家試験の例題、「過去問」は同協会の公表試験問題です(日本無線協会 試験問題。同協会の利用条件に基づき掲載)。「オリジナル」は当サイトの作問です。
次の記述の[ ]内に入れるべき字句の組合せで、正しいのはどれか。 スーパヘテロダイン受信機の中間周波増幅器は、周波数混合器で作られた中間周波数の信号を[A]するとともに、[B]妨害を除去する働きをする。
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