無線通信ブートラボ
第9回

検波する前に、弱い信号を育てる

イメージ妨害は減りました。でも遠い局は、ボリュームを上げても声が出てきません。今回は検波器の「前」に増幅器を足して、弱い信号を育てます。そして、育てすぎると何が起きるかも見ます。
この回でつくる

IF フィルタの後ろに、利得を 0〜60 dB の間で変えられる中間周波増幅器(IF 増幅器)を足します。あわせて今回から、検波器のダイオードに実物どおりの順方向電圧(約 0.3 V)を、増幅器には最大出力(振幅 3 V)を与えます。理想部品では見えなかった「使える範囲」を体験する回です。

前回の困りごと

第8回で RF 同調回路を 2 段にして、1,909 kHz のイメージ妨害はぐっと減りましたね。希望波の 999 kHz は 455 kHz に移り、IF フィルタを通って、検波器に届いています。ところが、入力を「遠い局」の弱さまで下げると、スピーカーからほとんど声が出なくなります。第3回で足した低周波増幅器(AF 増幅器)のボリュームを最大にしても、出てくるのは小さなザーだけです。増幅器はもう持っているのに、なぜ弱い局は聞こえないのでしょう。今回はこの「増幅器の置き場所」の問題を解きます。

予想してから、1つ足す

足すのは、IF フィルタと検波器の間に入れる増幅器です。つまり「検波する前」に大きくします。予想してみましょう。(a) AF 増幅器と同じで、音が大きくなるだけ。(b) 検波の前で大きくすると、検波そのものがうまくいくようになる。(c) 大きくしすぎると、何かが壊れる。どれだと思いますか。今回は実物の部品らしさを 2 つ足します。検波器のダイオードは、約 0.3 V の順方向電圧より小さい電圧ではほとんど電流を流しません。増幅器は電源電圧で決まる最大出力があり、振幅 3 V を超える波形は出せません。この 2 つがそろうと、増幅器の「下の壁」と「上の壁」が見えてきます。利得つまみは今回は手で回します(自動で回すのは次回です)。観測点は、IF 増幅器の入口(A)、出口すなわち検波器の入口(B)、検波出力(C)の 3 か所です。

今日の受信機(第9回)
今日の受信機。IF フィルタと検波器の間に可変利得の中間周波増幅器(橙)を追加。観測点は A(増幅器入口)・B(検波器入口)・C(検波出力)

動かしてみる

まず弱い局です。IF フィルタの出口(A)で、搬送波の振幅が 20 mV になるように入力を絞ります。変調度は 50 % なので、包絡線は 10 mV から 30 mV の間で動いています。利得つまみを 0 dB にして検波器に送ると、検波出力(C)はほぼ 0 のままです。30 mV は順方向電圧 0.3 V の 10 分の 1 ですから、ダイオードは「閉じたまま」で、包絡線をなぞる仕事が始まらないのです。ここで AF 増幅器のボリュームを上げても、無いものは大きくなりません。第3回で音量を上げても解決しなかった理由は、ここにありました。

固定 0.3 V で立ち上がる折れ線モデルと、実物ダイオードの滑らかな電流電圧曲線を並べ、弱信号域の違いを示した図。
固定 0.3 V の壁は、簡略モデル。実物では段ではなく坂

利得つまみを 20 dB に回します。電圧で 10 倍なので、検波器の入口(B)は振幅 200 mV、包絡線は 100〜300 mV です。山の付け根が順方向電圧 0.3 V に届くかどうかの境目なので、検波出力には声の大きい部分だけが小さく現れ、谷の部分は切れて聞こえません。ひずんだ、かすれ声です。30 dB(約 31.6 倍)にすると振幅 632 mV、包絡線は 316〜948 mV で、声がはっきり戻ります。40 dB(100 倍)で振幅 2 V、包絡線は 1〜3 V になり、ナレーションがきれいに聞こえます。「検波の前で大きくすると、検波そのものがうまくいく」。予想 (b) が当たりでした。

弱すぎると取り出せない
検波器の入口と出口。入口 20 mV ではダイオードが開かず出力ゼロ、200 mV では谷が切れたかすれ声、2 V ではきれいな音声波形

次は強い局です。利得つまみを 40 dB のままにして、入力を「近い局」の強さまで上げます。IF フィルタの出口(A)で振幅 2 V、弱い局の 100 倍(40 dB)です。増幅器はこれを 100 倍の 200 V にしたいのですが、出せるのは 3 V までです。検波器の入口(B)を見ると、山も谷もそろって 3 V で切り取られ、包絡線が平らな板のようになっています。包絡線が平らなら、それをなぞる検波出力も平らです。つまり声が消えます。スピーカーからは、ときどき「ブツッ」と鳴る小さなひずみ音だけが聞こえます。予想 (c) も当たりです。「大きすぎると音が割れる」どころか、AM では「大きすぎると声がなくなる」のです。利得つまみを 0 dB に戻すと、振幅 2 V がそのまま検波器に入って、またきれいに聞こえます。

大きすぎても壊れる波形
飽和した増幅器の出力。山も谷も 3 V で切られて包絡線が平らになり、検波出力から声が消える

ここで、検波器の入口(B)に「ちょうどよい範囲」があることに気づきます。包絡線の谷が順方向電圧 0.3 V を十分に超えていてほしいので、搬送波の振幅はおよそ 0.5 V 以上。山が最大出力 3 V を超えないようにしたいので、変調度 50 % なら振幅は 2 V 以下。範囲は 0.5 V から 2 V、電圧比で 4 倍、わずか 12 dB です。一方で、入力は弱い局から強い局まで 40 dB 動きました。利得つまみを手で回し続けないと、どちらかの壁にぶつかってしまいます。

横軸を搬送波振幅にして、包絡線の谷が下限 0.3 V を、山が上限 3 V を越える位置を示し、間の使える範囲を帯で示した図。
谷と山、両方に余白を取る。谷が下の壁を、山が上の壁を越えない範囲だけ使える
ちょうどよい範囲は狭い
検波器入口の「使える範囲」。下の壁は順方向電圧 0.3 V、上の壁は最大出力 3 V。間は約 12 dB しかなく、入力の 40 dB の変動には足りない
やってみよう

シミュレータで、弱い局を入れたまま利得つまみを 0 dB から 60 dB へゆっくり回し、検波出力に声が現れる利得をメモしてください。次に強い局に切り替え、同じく回して、声がつぶれ始める利得をメモします。2 つの利得の差が、あなたの受信機が「つまみを触らずに」聞ける入力の幅です。頭の中で追う人は、20 mV × 10 倍、× 100 倍、× 1000 倍と電圧を掛けていき、0.3 V と 3 V の壁のどこで越えるかを数えてください。

名前をつける

今日足した増幅器は、スーパヘテロダイン受信機の中間周波増幅器です。仕事は 2 つあります。1 つは、ミキサで 455 kHz に移った信号を、検波器がきちんと働くレベルまで大きくすること。もう 1 つは、第7回の IF フィルタと一緒に、近接周波数の選択度を受け持つことです(増幅器の段間にも同調回路が入るので、増幅しながら絞っています)。第3回の AF 増幅器が「声になったあとの音量」を受け持つのに対して、IF 増幅器は「声になる前の育て方」を受け持ちます。順番が違うだけで、できることがまったく違うのでした。

同じ 40 dB を IF 側で増やす経路と AF 側だけで増やす経路を段階波形で比べ、検波で失われた声は後段の利得では戻らないことを示した図。
同じ 40 dB でも、どこで増やす? 検波で失われたものは後ろの利得では戻らない

利得の数え方も整理しておきます。増幅器を縦につなぐと、電圧の倍率は掛け算になります。20 dB の段を 2 つ通れば、10 倍 × 10 倍で 100 倍です。デシベルで書くと、掛け算が足し算に変わります。20 dB + 20 dB = 40 dB。今回の受信機でも、RF 同調(損失)、ミキサ(変換損失)、IF フィルタ(損失)、IF 増幅器(利得)と、各段の dB を足していけば入口から検波器までの合計が出ます。損失は負の dB として足します。

増幅の階段
増幅の階段。20 mV → 200 mV → 2 V。各段 20 dB、電圧は 10 倍ずつ。dB は足し算、倍率は掛け算
多段増幅器の総合利得(真数)
A_{v,\mathrm{total}} = A_{v1} \, A_{v2} \cdots A_{vn}

縦続接続した増幅器の電圧利得は、各段の電圧利得の積。10 倍と 10 倍なら 100 倍

多段増幅器の総合利得(dB)
G_{\mathrm{total,dB}} = \sum_i G_{i,\mathrm{dB}} = G_{1,\mathrm{dB}} + G_{2,\mathrm{dB}} + \cdots

dB で表した利得は足し算。損失は負の dB として足す。20 dB と 20 dB なら 40 dB

電圧比と電力比の dB
G_{\mathrm{dB}} = 20\log_{10}\frac{V_{\mathrm{out}}}{V_{\mathrm{in}}} = 10\log_{10}\frac{P_{\mathrm{out}}}{P_{\mathrm{in}}} \quad (R_{\mathrm{in}} = R_{\mathrm{out}})

電圧比は 20log、電力比は 10log。この 2 つが同じ値になるのは、入出力の抵抗が等しいとき。電圧 10 倍 = 20 dB、電力 10 倍 = 10 dB

今日見つかった 2 つの壁

  • 下の壁(検波器の順方向電圧) 包絡線の谷が約 0.3 V を下回ると、ダイオードが開かず、その部分の声が切れる。弱すぎる信号は検波できない
  • 上の壁(増幅器の最大出力) 電源電圧で決まる振幅(今回は 3 V)を超える波形は出ない。山も谷も切られると包絡線が平らになり、AM の声が消える。これが飽和
  • 2 つの壁の間 検波器がまともに働く入力の範囲。今回の部品では約 12 dB。この幅を受信機のダイナミックレンジと呼ぶことがある。入力は 40 dB 以上動くので、利得を変える仕組みが要る
無線技士の女性の先生が、机の上の受信機の検波器のところを指さしている
先生の一言。検波器が開くまで育ててから渡す

試験ではこう出る

試験ではここ

基礎では、多段増幅器の総合利得を dB で足す問題が出ます。たとえば電圧利得 20 dB の増幅器を 2 段縦続すると、総合利得は 20 + 20 = 40 dB で、電圧比は 10 × 10 = 100 倍です。電力で聞かれたら 10log を使うので、電力比 100 倍は 20 dB です(入出力の抵抗が等しい条件)。工学A と 3 アマ・陸特では、スーパヘテロダイン受信機の構成図で中間周波増幅器の働きを問う問題が出ます。答えは「中間周波数の信号を増幅する」と「近接周波数の混信(選択度)を受け持つ」の 2 つで、今日の実験で見た 2 つの仕事そのものです。

ひっかけ

「20 dB の増幅器を 2 段で 40 dB だから 40 倍」は定番の誤りです。dB は足し算ですが倍率は掛け算なので、電圧比は 100 倍です。逆に、電圧比 100 倍を 10log で計算して 20 dB と答えるのも誤りで、電圧比には 20log を使って 40 dB です。式を書く前に「電圧か電力か」「真数か dB か」を必ず確認しましょう。

今日の結果

第9回の記録

  • 聞こえたもの 検波器の前に 30〜40 dB の利得を置くと、AF 増幅器のボリュームでは出なかった弱い局の声が戻った
  • 見えたもの 検波器の入口には下の壁(順方向電圧 0.3 V)と上の壁(最大出力 3 V)がある。強い局で飽和すると包絡線が平らになり、声が消える
  • まだ困ること 局を替えるたび、またフェージングで強さが揺れるたびに、利得つまみを手で回し続けないと、どちらかの壁にぶつかる

手で回していた利得つまみを、受信機自身に回してもらいましょう。検波出力の「大きさ」を見て、強いときは利得を下げ、弱いときは上げる。次回は、この帰還の仕組みに AGC という名前をつけます。

この回で解けるようになる問題

本文の「例題No.」は公益財団法人日本無線協会が公表している CBT 方式の国家試験の例題、「過去問」は同協会の公表試験問題です(日本無線協会 試験問題。同協会の利用条件に基づき掲載)。「オリジナル」は当サイトの作問です。

3アマ ・ 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.2 問22

次の記述の[ ]内に入れるべき字句の組合せで、正しいのはどれか。 スーパヘテロダイン受信機の中間周波増幅器は、周波数混合器で作られた中間周波数の信号を[A]するとともに、[B]妨害を除去する働きをする。

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三陸特 ・ 日本無線協会 令和3年2月期 無線工学 問23

スーパヘテロダイン受信機において、近接周波数による混信を軽減するには、どのようにするのが最も効果的か。

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