無線通信ブートラボ
第3回

小さな声を、スピーカーへ

検波器の後ろに低周波増幅器と音声出力段を足し、受信機自身がスピーカーを鳴らせるようにする。電圧を伸ばすことと電力を渡すことの違い、上げすぎたときの飽和を見る。
この回でつくる

この回でつくるのは低周波増幅器(AF 増幅器)と音声出力段です。検波器の後ろにつないで、受信機自身がスピーカーを鳴らせるようにします。モニタの助けはもう借りません。

前回の困りごと

前回、ダイオードとコンデンサで声が戻りました。でも聞けたのは観測用のモニタスピーカーのおかげです。検波出力の振幅は数十 mV。この端子に直接スピーカーをつないでも、かすかに鳴るかどうかという大きさです。スピーカーを動かすには、もっと大きな電圧と、コーン紙を実際に押し引きする電流、つまり電力が要ります。受信機は「声の形」を手に入れましたが、「声の力」がまだありません。

予想してから、1つ足す

今日足すのは、検波出力を何十倍、何百倍にする増幅器と、その先でスピーカーを駆動する出力段です。足す前に予想してください。増幅器を入れると、何が変わるでしょう。声が大きくなる、はそのとおり。では、声以外のものはどうなるでしょう。前回、音声の下に残っていたわずかなリプルは。そして、もし模擬アンテナ入力に 2 つ目の局を足したら、増幅器はどちらの局を大きくするでしょう。

今日の受信機(第3回)
今日の受信機。模擬アンテナ入力(灰)→ 包絡線検波器(灰)→ 低周波増幅器+音声出力段(橙)→ スピーカー。観測端子(青)は検波出力と増幅出力の 2 か所

動かしてみる

増幅器の利得つまみを上げていきます。検波出力の 20 mV の波が、増幅出力では 2 V になりました。100 倍です。波形の形はそのまま、縦だけが伸びています。スピーカーからは、はっきりした音量でナレーションが聞こえます。初めて、受信機が自分の力で声を出しました。

利得つまみには 10 倍・100 倍・1,000 倍の目盛があります。10 倍では 200 mV で、スピーカーはかすかに鳴る程度。100 倍で 2 V になり、部屋で聞ける音量。1,000 倍にすると、あとで見るとおり別の問題が起きます。ここで前回の末尾に残っていた 999 kHz のわずかなリプルも見ておきます。増幅出力でもリプルは 100 倍になっていますが、耳には届かない周波数なので音としては聞こえません。増幅器は、音声もリプルも区別せず、同じ倍率で大きくしています。

小さな声を大きくする
小さな声を大きくする。上: 検波出力 20 mV の音声波形。下: 増幅出力 2 V の同じ波形。縦軸の目盛が 100 倍違い、形は同じ

ここで、観測と駆動の違いを見ておきます。オシロスコープは、ほとんど電流を取らずに電圧の形だけを見る道具です。だから検波出力の 20 mV もそのまま表示できました。スピーカーはそうではありません。8 Ω のコイルに電流を流してコーン紙を動かす装置で、2 V をかければ 0.25 A が流れ、0.5 W の電力を消費します。電圧だけ大きくしても、電流を出せない回路ではスピーカーは鳴りません。だから出力段は「電圧を増やす」のではなく「電力を供給する」役目を持ちます。

正弦波にピーク値と実効値を記入し、実効値から電流と電力への計算をつなぎ、2 V がどちらかで電力が変わることを示した図。
ピーク・実効値・電力を混ぜない。同じ 2 V でも、どちらの 2 V かで電力は 2 倍違う
波形を見ることと、スピーカーを動かすこと
波形を見ることと、スピーカーを動かすこと。左: オシロスコープは電流をほとんど取らず、電圧の形を見る。右: スピーカーは 8 Ω に 0.25 A を流して 0.5 W を消費する。出力段は電流を供給する

次に、利得つまみをさらに上げてみます。出力は 2 V から 5 V、8 V と増えますが、ある高さで波の頭が平らに切れました。増幅器には電源電圧で決まる出力の上限があり、それ以上は出せません。頭が切れた波形の音は、ガリガリとひずんで聞こえます。もとの音声には無かった成分が生まれているのです。大きくすれば何でもよいわけではなく、増幅器が「まっすぐ」動ける範囲の中で使う必要があります。

電源で決まる上下限の線と信号のピークまでの距離を寸法線で示し、利得を上げる前後で余白を比較した図。
波形の頭が切れるまでの余白。余白は入力の最大の山でも残っていなければならない
上げすぎると頭が切れる
上げすぎると頭が切れる。左: 利得を適切にした出力(なめらか)。右: 利得を上げすぎた出力(山と谷が電源電圧の上限で平らに切れる)。切れた部分を赤で強調

最後に、模擬アンテナ入力に 2 つ目の局を足します。999 kHz の局はそのまま、1,008 kHz にもう 1 局。中波放送の局と局は 9 kHz 間隔で並んでいるので、隣の局を模した設定です。スピーカーからは、2 人のナレーションが同じ大きさで重なって聞こえ、その上に 9 kHz の高いピーという音が乗ります。2 つの搬送波が検波器でぶつかって、その差の周波数が音として出てきたものです。利得を上げても、この混ざり方はまったく変わりません。両方が同じ割合で大きくなるだけです。

混信も一緒に大きくなる
混信も一緒に大きくなる。上: 999 kHz と 1,008 kHz の 2 局が入ったときのスペクトル。下: 増幅出力の音声スペクトルに、2 人の声と 9 kHz のビートが並ぶ。利得を上げても比率は同じ
やってみよう

シミュレータでは、利得つまみを 10 倍・100 倍・1,000 倍に切り替え、観測端子を「増幅出力」にして頭が切れ始める利得を探してください。次に模擬アンテナ入力の「第 2 局」をオンにして、利得を変えても 2 局の比率が変わらないことを確かめます。実物派は、低周波増幅 IC の入力に検波出力をつなぎ、ボリュームを上げすぎたときの音を聞いてみてください。

名前をつける

「何倍にしたか」には 2 つの数え方があります。入力電圧に対する出力電圧の比が 電圧利得、入力電力に対する出力電力の比が 電力利得 です。今日の増幅器は 20 mV を 2 V にしたので電圧利得は 100。スピーカーを鳴らすために本当に必要だったのは電力のほうで、出力段が担ったのはそちらでした。

電圧利得と電力利得(真数)
A_v=\frac{V_{\mathrm{out}}}{V_{\mathrm{in}}},\qquad G_P=\frac{P_{\mathrm{out}}}{P_{\mathrm{in}}}

どちらも「出力 ÷ 入力」で単位の無い倍率。V は電圧、P は電力。20 mV → 2 V なら A_v = 100

利得は段を重ねると掛け算になり、数字がすぐ何万倍にもなります。そこで倍率の桁を数える単位として、デシベルを使います。

電力利得のデシベル表示
G_{\mathrm{dB}}=10\log_{10}G_P

電力比が 10 倍なら 10 dB、100 倍なら 20 dB、2 倍なら約 3 dB。掛け算が足し算に変わるので、段を重ねるときは dB を足せばよい

電圧比からデシベルへ(入出力の抵抗が等しいとき)
G_{\mathrm{dB}}=20\log_{10}A_v\quad(R_{\mathrm{in}}=R_{\mathrm{out}})

電力は電圧の 2 乗に比例するので、同じ抵抗どうしなら電圧比の 2 乗が電力比。log の前に出ると係数が 20 になる。電圧比 100 倍は 40 dB。抵抗が違うときはこの式をそのまま使えない

今日の増幅器で、電圧利得と電力利得の違いを数字で確かめましょう。検波出力は 20 mV で、検波器の負荷は 10 kΩ でした。ここでの電力は電圧の 2 乗を抵抗で割って 40 nW。出力はスピーカーの 8 Ω に 2 V で 0.5 W。電力の比は 1,250 万倍、dB にすると約 71 dB です。電圧利得の 40 dB とは数字が違います。入口が 10 kΩ、出口が 8 Ω と抵抗が違うので、電圧比を 20 倍の log で換算しても電力利得にはならないのです。試験で「抵抗が等しいとき」と条件がついている理由は、ここにあります。

同じ抵抗を前提に、電圧 10 倍が電力 100 倍になることを正方形の面積で表し、どちらも 20 dB に対応することを示した図。
電圧比 20 dB と電力比 20 dB。R が等しいときだけ同じ数字になる

利得は段を重ねると掛け算になります。10 倍の増幅器を 2 段つなげば 100 倍。dB で書けば、電圧比 10 倍は 20 dB なので、20 dB と 20 dB で 40 dB。掛け算が足し算に変わるのが、dB を使う本当の理由です。受信機はこれから増幅器が何段も増えていくので、各段の利得を dB で書いて足す習慣を、今日からつけておきます。

倍率と dB の対応

電力比 10log電圧比 20log(R が等しいとき)
1 倍0 dB0 dB
2 倍約 3 dB約 6 dB
10 倍10 dB20 dB
100 倍20 dB40 dB
1,000 倍30 dB60 dB

もう 1 つ、波の頭が切れた現象にも名前をつけます。増幅器の出力が上限に張りついて入力に比例しなくなる状態が 飽和 で、波形の頭が切れることをクリッピングと呼びます。入力の形をどれだけ正確に出力に再現できるかという受信機の性能が忠実度で、飽和は忠実度を落とす典型的な原因です。

何倍と何 dB
何倍と何 dB。横軸に電力比 1・10・100・1,000、縦軸に 0・10・20・30 dB の階段。横軸が 10 倍進むごとに縦が 10 dB 上がる
無線技士の女性の先生が、音が出ているスピーカー(音の波線が出ている)の横に立って、スピーカーにつながる太い配線を指している
先生の挿絵。鳴っているスピーカーの前で「電圧を伸ばすだけじゃスピーカーは動かないから、出力段は電流を出して電力を渡す仕事をしているの」

試験ではこう出る

試験ではここ

デシベルの計算は、3アマから一陸技まで全部の試験で、形を変えて出ます。3アマの無線工学では「出力電力が入力の 100 倍の増幅器の電力利得は何 dB か」のような一段の換算で、答えは 10log 100=20 dB。一陸技の基礎では、多段増幅器の総合利得を dB の足し算で求めたり、電圧比と電力比を混ぜて出題したりします。電圧比 100 倍を「20 dB」と答えると電力比と混同したことになるので、問題文の「電圧」か「電力」かを最初に丸で囲む習慣をつけてください。3アマや陸特の無線工学では、スーパーヘテロダイン受信機の各増幅器の役割を空欄で問う形で、低周波増幅器が「検波出力をスピーカーを駆動できる大きさまで増幅する」段だと確認されます。

ひっかけ

「増幅器の利得を上げれば、弱い局も聞こえるようになり、受信機の性能が上がる」は半分だけ正しい文です。利得を上げると信号も雑音も混信もいっしょに大きくなります。今日の実験で見たとおり、2 局の比率は利得では変わりません。受信機の性能のうち、利得で改善できるのは「音の大きさ」だけで、選択度や感度は別の部品の仕事です。

今日の結果

第3回の記録

  • 聞こえたもの 受信機自身のスピーカーから、聞ける音量でナレーションが鳴った。利得を上げすぎるとガリガリとひずんだ。2 局を入れると 2 人の声と 9 kHz のピー音が重なった
  • 見えたもの 20 mV が 2 V になった波形(電圧利得 100 倍、40 dB)。電源電圧の上限で頭が切れる波形。2 局入力時の混ざったスペクトル
  • まだ困ること 音量は足りたが、局を選べない。増幅器は入ってきたものを全部同じ割合で大きくするだけで、999 kHz の局だけを残す力がない

次回は、検波器の前に「周波数の門」を立てます。コイルとコンデンサで 999 kHz だけを通し、隣の局を弱めます。直接検波ラジオが、いったん完成します。

この回で解けるようになる問題

本文の「例題No.」は公益財団法人日本無線協会が公表している CBT 方式の国家試験の例題、「過去問」は同協会の公表試験問題です(日本無線協会 試験問題。同協会の利用条件に基づき掲載)。「オリジナル」は当サイトの作問です。

3アマ ・ ブートラボ オリジナル問題 無線工学 No.3 問18

増幅器の出力電力が入力電力の 100 倍になったとき、この増幅器の電力利得をデシベルで表した値として正しいのは次のうちどれか。

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3アマ ・ 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.2 問22

次の記述の[ ]内に入れるべき字句の組合せで、正しいのはどれか。 スーパヘテロダイン受信機の中間周波増幅器は、周波数混合器で作られた中間周波数の信号を[A]するとともに、[B]妨害を除去する働きをする。

この問題を解く
3アマ ・ ブートラボ オリジナル問題 無線工学 No.3 問23

次の記述の[ ]内に入れるべき字句の組合せで、正しいのはどれか。 スーパヘテロダイン受信機の高周波増幅器は、アンテナからの微弱な信号を増幅して受信機の[A]を改善するとともに、[B]による混信を軽減する働きをする。

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