無線通信ブートラボ
第5回

受信機の中に、もう一つの波を作る

同調回路だけで鋭く選び続けるのは難しい。「選局の仕事をいつも同じ周波数でやる」ための第一歩として、受信機の中に自前の波を 1 本置きます。今日は音が変わらない回です。
この回でつくる

受信機の中に局部発振器を 1 つ足して、希望波 999 kHz より 455 kHz 高い 1,454 kHz の正弦波を自分で作ります。今日はこの波をまだどこにもつなぎません。

前回の困りごと

第4回で、検波器の手前に同調回路を入れて、直接検波ラジオができました。999 kHz の希望局がはっきり優勢になり、ひとまず「聞きたい局を選ぶ」ことができましたね。ところが、つまみを回して別の局に合わせると、選びやすさが局ごとに変わってしまいました。同調回路の帯域幅は、共振周波数を Q で割ったものです。同じ Q のまま共振周波数を 999 kHz から 1,500 kHz に動かすと、帯域幅も 1.5 倍に広がります。Q を上げれば鋭くなりますが、コイルの損失には限りがあり、しかも周波数を変えるたびに特性が変わる回路を、何段も揃えて同時に動かすのはとても大変です。

ここで、発想を少し変えてみましょう。「選局の仕事を、いつも同じ周波数でやれないだろうか」。どの局を聞くときも、鋭いフィルタは 1 か所に固定しておいて、受信した波のほうをそこへ運んでくる。そのための第一歩が、今日足す部品です。

予想してから、1つ足す

今日足すのは、受信機の中で自分の波を作る回路です。アンテナから来る波とは別に、受信機が自分で正弦波を 1 本作ります。さて、ここで予想してみてください。この回路を足すと、スピーカーから出る音はどう変わると思いますか。大きくなる、混信が減る、それとも何も変わらない。答えを決めてから先へ進みましょう。

今日の受信機:発振器はまだ信号の外
今日の受信機。灰色の既設ブロックの脇に、橙色の発振器が置かれている。出力はまだどこにもつながっていない

図を見てください。既設の経路は「アンテナ → 同調回路 → 検波器 → AF 増幅 → スピーカー」のまま変えません。新しい発振器は、その経路の外に置いて、出力を観測端子 B につなぐだけです。発振器とは、外から信号を入れなくても、一定の周波数の交流を作り続ける回路です。増幅器の出力の一部を入力へ戻す「帰還」で動き、周波数はコイルとコンデンサの共振回路や、水晶振動子で決まります。今日のシミュレータでは、周波数つまみ 1 つで出力周波数を変えられる発振器を使います。

受信機の境界線を描き、アンテナから入る受信波の経路と、電源だけで動く局部発振器の経路が別であることを示した図。
局発は、外から来た電波ではない。電源だけで動く、受信機の中の自前の波

動かしてみる

まず観測端子 A(アンテナ入力)と B(発振器出力)の波形を並べて見ます。A には第1回からおなじみの 999 kHz の AM 波が来ています。細かい振動の外側を、声に合わせて包絡線がゆっくり動いていますね。B には 1,454 kHz の正弦波が出ています。振幅はずっと一定で、包絡線は平らな直線です。声の情報は何も載っていません。周波数が高いぶん、同じ時間幅に入る山の数が A より 1.5 倍ほど多いことも確かめておきましょう。

受信する波・自分で作る波
受信する波・自分で作る波。上は 999 kHz の AM 波(包絡線が動く)、下は 1,454 kHz の正弦波(振幅一定)

次にスペクトルで見ます。A の成分は 999 kHz を中心に、左右 3 kHz までの側波帯がついています。B は 1,454 kHz に 1 本の線だけです。この 2 本の間隔を測ると、ちょうど 455 kHz。この間隔を、今日から受信機の約束にします。

いつも 455 kHz 離す
いつも 455 kHz 離す。周波数軸上の 999 kHz と 1,454 kHz の 2 本のマーカと、その間の 455 kHz の寸法線

ここで、同調回路のつまみと発振器のつまみを連動させてみましょう。希望波を 1,000 kHz にすると、発振器は 1,455 kHz。594 kHz の局に合わせると 1,049 kHz。1,620 kHz の局なら 2,075 kHz。局を変えても、2 本の線の間隔はいつも 455 kHz に保たれます。実際の受信機では、同調用と局発用の 2 連バリコンを 1 本の軸で回して、この連動を機械的に実現していました。

同じ軸の回転角に対する RF 同調の目標周波数と局発の目標周波数の 2 本の曲線を描き、どの角度でも差を 455 kHz に保つ難しさを示した図。
二つのつまみを一緒に動かす難しさ。どの角度でも差を 455 kHz に保つ
局を変えると基準も動く
局を変えると基準も動く。希望波 594 / 999 / 1,620 kHz に対して、発振器が 1,049 / 1,454 / 2,075 kHz と連動して動く 3 段の周波数軸

最後に、スピーカーの音を聞きます。発振器を入れる前と後で、音量も混信も、何も変わりません。予想は当たりましたか。正解は「何も変わらない」です。がっかりした人もいるかもしれませんが、これは失敗ではありません。発振器はまだ信号の経路につながっていないので、受信波は発振器の存在を知らないのです。今日の実験で確かめたのは、「受信機の中に、受信波とは独立な基準の波を、望んだ周波数で安定して置けること」です。この基準があるからこそ、次回の変換ができます。

変わらない音にも意味がある
変わらない音にも意味がある。追加前・追加後で、検波出力の波形が同じであることを並べて示す
やってみよう

シミュレータの発振器つまみを 1,454 kHz からゆっくり動かして、観測端子 B のスペクトルの線が移動するのを見てください。次に A と連動させて、希望波を 594 → 999 → 1,620 kHz に切り替え、2 本の線の間隔が 455 kHz に保たれるかを確認します。実物派の人は、頭の中で「同調つまみを右へ回すと局発も右へ、差はいつも 455」と唱えてください。

名前をつける

今日足した回路を、局部発振器と呼びます。英語の local oscillator を略して LO とも書きます。「局部」は「受信機の中にある、自前の」という意味です。送信所の電波と区別するための言葉で、放送局の「局」ではありません。局部発振器が出す周波数と、聞きたい局の周波数の差を、中間周波数と呼びます。この差は受信機の中であらかじめ決めてある値で、中波の AM ラジオでは 455 kHz が長く標準でした。

局部発振周波数(上側局発)
f_{\mathrm{LO}} = f_{\mathrm{RF}} + f_{\mathrm{IF}}

局発の周波数は、受信したい周波数 f_RF に中間周波数 f_IF を足したもの。「受信周波数より中間周波数だけ高いところに局発を置く」と読む

教材の数値で
999 + 455 = 1454\ \mathrm{kHz}

希望波 999 kHz に 455 kHz を足して 1,454 kHz。希望波を変えたら、この式で局発も必ず動かす

差が 455 kHz になる置き方は、実は 2 通りあります。受信周波数より高い側に置く「上側局発」と、低い側に置く「下側局発」です。999 kHz の局なら、下側は 544 kHz になります。この教材では上側を使います。理由は可変範囲です。中波の放送帯 526.5〜1,606.5 kHz を全部カバーするとき、上側局発は 981.5〜2,061.5 kHz で、最高と最低の比はおよそ 2.1 倍です。下側局発だと 71.5〜1,151.5 kHz で、比は約 16 倍になります。発振周波数は LC の積の平方根に反比例するので、周波数比 2.1 倍ならコンデンサの容量比は約 4.4 倍で済みますが、16 倍の周波数比には容量比 256 倍が必要です。1 つのバリコンでは作れません。

希望局 999 kHz を中心に、上側局発 1,454 kHz と下側局発 544 kHz を周波数軸に置き、どちらも差が 455 kHz であることを示した図。
局発を下側に置く方法もある。差が 455 kHz ならどちらでもよいが、この教材は上側を使う

発振器が「勝手に」振動を続けられる条件も、名前をつけておきましょう。増幅器の利得を A、出力から入力へ戻す帰還回路の割合を β とすると、一周して戻ってきた信号が元と同じ大きさで同じ位相のとき、入力なしでも振動が続きます。

発振条件
A\beta \ge 1, \qquad \angle(A\beta) = 2\pi n \quad (n = 0, 1, 2, \ldots)

ループ利得 Aβ の大きさが 1 以上で、位相が一周してちょうど元に戻ること。大きさの条件を振幅条件、位相の条件を周波数条件と呼ぶ。周波数条件を満たす周波数で発振する

局部発振器に求められること

  • 周波数が安定していること 局発がずれると、受信波が運ばれる先(中間周波数)もずれる。温度や電源電圧で動かないことが第一
  • スプリアスが少ないこと 目的の周波数以外の成分(高調波など)が出ると、それと受信波が混ざって余計な信号を作る。純粋な正弦波に近いほどよい
  • 振幅が一定であること 次回つなぐ混合器の動作点が変わらないように、出力の大きさを一定に保つ
  • 必要な範囲を可変できること 受信帯の全局に対して、差を 455 kHz に保ちながら動けること。上側局発を選ぶのはこのため
無線技士の女性の先生が、作業机の上のオシロスコープを指している
先生の挿絵。発振器の出力をオシロスコープで見せながら、「受信波より 455 kHz 高い波を、自分で作っておく」と説明している

試験ではこう出る

試験ではここ

工学A・陸特・3アマで定番なのは、局部発振周波数の計算です。「中間周波数が 455 kHz、受信周波数 21,200 kHz、局発は受信周波数より高い」と条件が付き、21,200 + 455 = 21,655 kHz を選びます。この教材の 999 + 455 = 1,454 kHz と同じ式です。4アマでは「局部発振器に必要な条件」として、周波数が安定でスプリアスが少ないことを選ぶ問題が出ます。基礎では発振条件そのもの、たとえば演算増幅器を使ったブリッジ形 CR 発振回路の発振周波数と帰還率を求める問題があります。発振条件は「ループ利得 1 以上、位相一周で元どおり」の 2 つを一緒に覚えてください。

ひっかけ

「局部発振器の周波数は受信周波数と等しくする」は誤りです。等しくすると差が 0 になり、中間周波数が作れません。また、今日の実験のように「局部発振器を追加すると音が改善する」も誤りです。局発は受信波に何かを足す回路ではなく、次回の混合器に渡す基準の波を作る回路です。

今日の結果

今日の結果

  • 聞こえたもの 第4回とまったく同じ音。音量も混信も変わらない
  • 見えたもの 観測端子 B に 1,454 kHz の一定振幅の正弦波。スペクトルでは 999 kHz と 1,454 kHz の 2 本の線が、どの局に合わせても 455 kHz の間隔で並ぶ
  • まだ困ること 基準の波を置いただけでは、受信波は 1 Hz も動かない。この 2 つの波を「混ぜる」部品がない

次回は、この 2 本の波を周波数混合器に入れます。「混ぜる」は足し算ではなく掛け算でした。999 kHz の AM 波が、声の輪郭を保ったまま 455 kHz へ引っ越す瞬間を見ます。

この回で解けるようになる問題

本文の「例題No.」は公益財団法人日本無線協会が公表している CBT 方式の国家試験の例題、「過去問」は同協会の公表試験問題です(日本無線協会 試験問題。同協会の利用条件に基づき掲載)。「オリジナル」は当サイトの作問です。

3アマ ・ ブートラボ オリジナル問題 無線工学 No.2 問23

中間周波数が 455〔kHz〕のスーパヘテロダイン受信機で 21,200〔kHz〕の電波を受信するとき、局部発振器の周波数として正しいのは次のうちどれか。ただし、局部発振周波数は受信周波数より高いものとする。

この問題を解く
4アマ ・ 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.1 問18

シングルスーパヘテロダイン受信機の局部発振器に必要とされる条件は、次のうちどれか。

この問題を解く
三陸特 ・ 日本無線協会 令和元年10月期 無線工学 問24

スーパヘテロダイン受信機の周波数変換部の働きは、次のうちどれか。

この問題を解く
一陸技 ・ 日本無線協会 令和8年1月期 無線工学の基礎 問14

図に示す理想的な演算増幅器 (AOP) を用いたブリッジ形 CR 発振回路の発振周波数 fo を表す式及び発振状態のときの電圧帰還率 β (V̇f/V̇o) の値の組合せとして、正しいものを下の番号から選べ。 R、R1、R2:抵抗〔Ω〕、C:静電容量〔F〕、V̇o:出力電圧...

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