前回の困りごと
前回、声の居場所は包絡線だと分かりました。でも観測端子にスピーカーをつないでも何も聞こえませんでした。理由は 2 つあります。1 つは、999 kHz の振動そのものは速すぎて耳に届かないこと。もう 1 つは、AM 波が上下に対称で、どの瞬間を平均しても真ん中のゼロに戻ってしまうことです。包絡線は上側に 1 本、下側に 1 本あって、お互いを打ち消しています。欲しいのは上側 1 本の輪郭だけなのに、取り出す方法がありません。
予想してから、1つ足す
そこで今日は、観測端子の先にダイオードを 1 本つなぎます。ダイオードは電流を一方向にしか流さない部品です。AM 波の正の半分だけが通り、負の半分は止められるはず。さらにその後ろに、コンデンサと抵抗を並べてつなぎます。足す前に予想してください。ダイオードを通ったあとの波形はどんな形でしょう。コンデンサを足すと、その波形はどう変わるでしょう。コンデンサが「山の高さを覚える」部品だと知っていれば、だいたいの形が想像できるはずです。
置く場所も考えておきます。検波器は模擬アンテナ入力の直後、箱の中のいちばん入口側につなぎます。いまは局が 1 つしかないので、ここで困ることはありません。あとの回で部品が増えると、検波器は箱の中のどんどん後ろへ押し出されていきます。「検波の前に何をしておくか」が、受信機の設計そのものだからです。

動かしてみる
まずコンデンサを外し、ダイオードと抵抗だけで見ます。観測端子を RC の後ろへ切り替えると、AM 波の上半分だけが残り、下半分がきれいに消えています。上側の包絡線はそのまま見えています。ただし、山と山のあいだはまだ 999 kHz の細かい谷があって、ゼロまで落ちています。これではまだ声ではありません。

ここにコンデンサを入れます。山が来るとコンデンサは充電され、山が過ぎて入力が下がっても、コンデンサは抵抗を通してゆっくりしか放電できません。だから次の山が来るまで、ほぼ山の高さを保ちます。999 kHz の谷は埋まり、山の先端を結んだ線、つまり包絡線だけが出力に残ります。細かい縞が消えて、音声そっくりのなめらかな波が現れました。


コンデンサと抵抗の組み合わせを変えると、結果は 3 通りに分かれます。抵抗を 10 kΩ に固定し、コンデンサを動かしてみましょう。10 pF では放電が速すぎて、999 kHz の谷が埋まりません。470 pF だとちょうどよく、包絡線をきれいに追います。10 nF にすると、今度は放電が遅すぎます。声が小さくなる瞬間に出力が下がりきれず、包絡線が急降下するところで出力が斜めに取り残されます。音で聞くと、速い子音がつぶれてこもった声になります。


ちょうどよい設定の出力をよく見ると、音声の波が「ゼロの線」ではなく、少し上に持ち上がった線のまわりで揺れています。これは、搬送波の振幅そのものに相当する直流分です。音声として聞くときは、この直流分を取り除いて、揺れている部分だけをスピーカーへ送ります。直流分は邪魔者ではなく、後の回で「信号の強さ」を知るための大切な手がかりになります。


直流分を取り除いた出力を、観測用のモニタスピーカーで聞いてみます。小さな音ですが、模擬アンテナ入力に載せたナレーションが、確かに聞こえます。もとの音声波形と重ねて表示すると、ほとんど一致します。電波の中にいた声を、ダイオードとコンデンサで取り出せました。
せっかくなので 2 つ、寄り道の実験をします。1 つ目はダイオードの向きを逆にすること。今度は負の山だけが通り、出力は下側の包絡線をなぞります。波形は上下が反転しますが、直流分を除いて聞くと声は同じです。耳は波形の極性を区別しません。2 つ目は搬送波の周波数を 1,500 kHz に変えること。細かい縞は密になりますが、470 pF の検波器はそのまま包絡線を追い、声の高さも音色も変わりません。前回の「搬送波を高くしても声は高くならない」が、音で確かめられました。

シミュレータでは、検波器の C を 10 pF・470 pF・10 nF に切り替え、観測端子を「ダイオード後」にして波形を見比べてください。次に変調度を 100 % にして、470 pF でも包絡線のくびれの直後で出力が取り残されるかを確かめます。実物派は、ゲルマニウムダイオードかショットキーダイオードを使うと、順方向電圧が小さくて小信号でも検波できます。
名前をつける
今日やったことに名前をつけます。ダイオードで片側だけを通す操作が 整流、コンデンサで山のあいだを埋める操作が 平滑 です。この 2 つを合わせて、変調波の包絡線を取り出す回路が 包絡線検波、試験の言葉では直線検波です。「変調された信号から音声などの信号波を取り出す」のが検波の定義で、送信側の変調の逆の操作にあたります。
平滑のちょうどよさは、抵抗とコンデンサの積で決まります。
R はオーム、C はファラド。積の単位は秒。コンデンサの電圧が放電で約 37 % まで下がるのにかかる時間。R = 10 kΩ、C = 470 pF なら τ = 4.7 μs
左辺は搬送波 1 周期に相当する時間(999 kHz なら約 0.16 μs)。右辺は音声の最高周波数に相当する時間(3 kHz なら約 53 μs)。RC はその間、たとえば数 μs に置く。左に寄ると搬送波の縞が残り、右に寄ると包絡線の下りに追いつけない
この不等式は設計の目安です。実際には変調度が大きいほど包絡線の下りが急になるので、追従できる RC の上限は変調度にも左右されます。この式だけで RC が一つに決まるわけではありません。今日の実験で、100 % 変調のときだけ 470 pF でも取り残しが見えたのは、そのためです。

もう 1 つ、理想のダイオードと実物の違いを書いておきます。実物のダイオードは順方向に 0.2〜0.6 V ほどの電圧がかからないと電流を流しません。入力の AM 波がそれより小さいと、包絡線をなぞれずに、振幅の 2 乗に比例した出力になります。これを 2 乗検波といい、ひずみが増えます。今日は模擬アンテナ入力を十分大きくしているので直線検波で動いていますが、弱い局を聞くときにこの差が問題になります。
検波出力の大きさについても一言。出力の音声の振幅は、包絡線の揺れ幅、つまり搬送波の振幅と変調度の積に比例します。同じ局でも変調度を 50 % から 100 % に上げると、声は 2 倍の大きさで戻ってきます。そして直流分は搬送波の振幅そのものに比例します。「声の大きさ」と「電波の強さ」が、検波出力の中では別々の場所に書かれているのです。この直流分を第10回で読み取って、受信機が自分で音量を合わせる仕組みを作ります。

試験ではこう出る
3アマ・4アマの無線工学では「変調された信号の中から音声信号を取り出す回路はどれか」という形で、検波回路を選ぶ問題が出ます。選択肢には変調回路・発振回路・増幅回路・平滑回路が並びます。平滑回路は電源の整流出力のリプルを取る回路で、検波の中にも同じ働きがありますが、問題文で「音声信号を取り出す」とあれば答えは検波回路です。一陸技の基礎では、ダイオードと抵抗の直流回路で順方向電圧を考慮して電流を求める問題や、整流回路でコンデンサに充電される電圧(交流の最大値)を問う問題が出ます。工学 A では、検波器の種類(包絡線検波・同期検波)と、それぞれが使える変調方式の対応が問われます。
「検波回路の RC は大きいほど平滑がよく効くので、大きいほどよい」は誤りです。RC を大きくしすぎると包絡線の下りに追いつけず、音声がひずみます。電源の平滑回路と違って、検波の平滑は「搬送波は消すが音声は残す」という上下 2 つの条件を同時に満たす必要があります。
今日の結果
第2回の記録
次回は、この小さな声をスピーカーが鳴る大きさまで増幅します。「大きくする」の中身が、電圧と電力の 2 種類あることが分かります。
この回で解けるようになる問題
本文の「例題No.」は公益財団法人日本無線協会が公表している CBT 方式の国家試験の例題、「過去問」は同協会の公表試験問題です(日本無線協会 試験問題。同協会の利用条件に基づき掲載)。「オリジナル」は当サイトの作問です。
図 1 に示すダイオード D と抵抗 R を用いた回路に流れる電流 ID 及び D の両端の電圧 VD の値の組合せとして、最も近いものを下の番号から選べ。ただし、ダイオード D の順方向特性は、図 2 に示す折れ線で近似するものとする。 図 1:直流電圧 V = 2.1〔...
この問題を解く図に示す整流回路において、端子 ab 間の電圧 Vab(最大値)及び端子 cd 間の電圧 Vcd の値の組合せとして、正しいものを下の番号から選べ。ただし、交流電源 V の電圧は、実効値 100〔V〕の正弦波交流電圧とし、変成器 T 及びダイオード D₁、D₂ は理想的な特...
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