無線通信ブートラボ
第16回

受信できた!— この声を取り出したのは自分だ

15 回かけて、困りごとを一つずつ直してきました。最終回は練習用の信号源を外し、実際の放送を録った未復調の信号を入口につなぎます。声が出た瞬間に、どの部品が何をしたから聞こえたのかを、自分の言葉で説明できるところまで行きましょう。
この回でつくる

この回でつくるもの: 入口の「練習用信号源」を外し、「実受信入力アダプタ」に差し替えます。アダプタの先には、実際の中波放送をアンテナと受信装置で録った未復調の信号(IF 相当のデータ)がつながります。受信機本体は、15 回かけて組んだものをそのまま使います。

前回の困りごと

第15回でスケルチを足し、聞くものがないときは静かにできるようになりました。これで部品は出そろいです。でも、ここまでの声は全部、シミュレータが数式から作った模擬信号でした。変調度は決められた値、雑音は決められた量、隣の局も妨害波も、こちらが置いたものです。本物の電波には、置いた覚えのないものが全部入っています。遠くの局、空電、電源のハム、夜になると強くなる外国の放送。模擬信号で動いた受信機は、本物でも動くでしょうか。今日はそれを確かめる回です。

予想してから、1つ足す

入口のブロックを差し替えます。練習用信号源の代わりに置く入力アダプタは、録音された未復調の信号を、第1回から使ってきた「アンテナ入力の観測点」に同じ形で流し込む変換器です。ここで一つ、正直に書いておきます。実際の電波は 1,000 kHz 前後の高い周波数で、音声の録音のように標本化すると大きすぎます。だから記録信号は、受信装置の側であらかじめ周波数を落とし、中心周波数と標本化の速さを添えて保存してあります。アダプタはその情報を読んで、教材の RF・IF の表現に対応づけます。中身は第6回のミキサと同じ周波数変換です。アンテナから受信機までの道のうち、前半を録音のときに、後半をいま、自分の受信機で行うのです。

記録信号のファイルに中心周波数・標本化周波数・帯域・単位・校正値のラベルを付け、それぞれが欠けると分からなくなる量を対応づけた図。
記録ファイルのラベルを読む。数字の列だけでは電波にならない

何が変わると思いますか。模擬信号と違う所を予想しておきましょう。レベルは分からない(AGC が働くはず)。隣の局がいるかもしれない(IF フィルタが要る)。雑音は模擬より多いか少ないか。局発を合わせないと IF の門に入ってこないのは同じ。スケルチは最初は切っておきます。弱い局を聞き逃したくないからです。

全体ブロック図の凡例を拡大し、信号経路・局発の注入・AGC の制御・PLL の制御を線種で整理し、分岐とバイパスの例を添えた図。
信号が通る線、制御が戻る線。全体図の線種を読む凡例
全部、自分で足してきた
全部、自分で足してきた。完成した受信機のブロック図。各ブロックに足した回の番号が付く。アッテネータ(12)→RF 同調(4)→RF 同調 2 段目(8)→低雑音 RF 増幅(11)→ミキサ(6)←局発(5)+基準・PLL(13)→IF フィルタ(7)→IF 増幅(9)←AGC(10)→検波器 包絡線(2)/同期(14)→スケルチ(15)→AF 増幅(3)→スピーカー。入口は実受信入力アダプタ(16、橙)

動かしてみる

ラボのシミュレータで、ブロック図を第1回から第15回まで順に並べます。保存してある前回の構成を読み込めば、そのままの状態で始められます。入力を「記録信号」に切り替えると、アンテナ入力の観測点にスペクトルが出ます。模擬信号のときのような 1 本の山ではなく、9 kHz おきに大小の山がいくつも並び、その間に雑音の床があります。これが中波の放送帯です。局発を回して、記録信号の中で一番大きい山(ここでは 999 kHz として記録してあります)に合わせます。局発が 1,454 kHz に来たところで、IF フィルタの出口に 455 kHz の山が入り、AGC の制御電圧が動き、スピーカーから声が出ました。

ポイント

受信できた。 この声は、あなたが組んだ受信機を通ってきました。アンテナが拾った電波の中から、この局を選び、455 kHz に運び、増幅して、包絡線をなぞって声に戻したのは、第1回から足してきた部品の一つ一つです。

記録された本物の電波が入ってくる
記録された本物の電波が入ってくる。アンテナと受信装置で録った未復調の信号(ファイル)→ 入力アダプタ → 自分の受信機 → スピーカー。手元や遠隔の SDR をつなぐ経路は点線で「次の探究」

声が出たら、すぐに観測点を順にたどってみましょう。アンテナ入力では複数の局が並んでいます。RF 同調の後では 999 kHz の山が高く、離れた局が低くなっています。ミキサの後では同じ形が 455 kHz に移り、2,453 kHz に和の成分もいます。IF フィルタの後では 452〜458 kHz だけが残り、隣の 990 kHz と 1,008 kHz の局(IF では 446 kHz と 464 kHz)は消えています。検波後には直流分の上に乗った音声波形、AF 出力ではそれが大きくなった波形。一つの声が通った道が、全部見えます。

一つの声が通った道
一つの声が通った道。4 段の観測: アンテナ入力(複数局が並ぶ)→ IF フィルタ出口(455 kHz だけ)→ 検波後(直流分の上の音声)→ AF 出力(増幅された音声)

ここからが最終回らしい実験です。聞こえている状態から、部品を一つずつ外してみます。まずミキサをバイパスすると、IF フィルタには 999 kHz の信号がそのまま来るので、455 kHz の門を通れず、無音になります。周波数変換は「同じ門をいつも使う」ための部品でした。次に IF フィルタの幅を 6 kHz から 2 kHz に狭めると、声がこもります。側波帯の高い成分が削れたからです。逆に 20 kHz に広げると、隣の 990 kHz と 1,008 kHz の局が混じってきます。AGC を切ると、記録信号の中で局のレベルがゆっくり揺れている(録音時のフェージング)のがそのまま音量の揺れになります。模擬信号では自分で置いた揺れでしたが、本物の揺れは勝手に起きていました。最後にアッテネータを 0 dB にして RF 増幅の利得を最大にすると、強い局が 2 つ重なる所で、第12回に見た架空の局が小さく現れます。どれも、ここまでの回で一度ずつ困ったことです。

条件を固定し、一つだけ変え、同じ区間を測り、記録する 4 コマの手順と、時刻や信号が変わった比較への注意印を示した図。
一つだけ変えて、比較を残す。変えた一つだけが差の原因だと言える
外すと分かる
外すと分かる。同じ記録信号に対し、ミキサをバイパス(無音)、IF 幅 2 kHz(こもる)、IF 幅 20 kHz(隣の局が混じる)、AGC 切(音量が揺れる)の 4 つの波形
やってみよう

やってみよう: (1) 前回の構成を読み込み、入力を記録信号にして、局発を回して 999 kHz の局を見つける。(2) 聞こえたら、観測点を入口から順にたどって、各段で何が変わったかを一言ずつメモする。(3) ミキサ外し・IF 狭め・IF 広げ・AGC 切・アッテネータ 0 dB を順に試し、どの回の困りごとが戻ってくるか当てる。(4) 記録信号の中の別の局(990 kHz、1,008 kHz、1,134 kHz)にも合わせ、局発が「局の周波数+455 kHz」になることを確かめる。

名前をつける

最終回で名前をつけるのは、部品ではなく受信機全体の「性能」です。試験では受信機の性能を 4 つの言葉で表します。感度、選択度、安定度、忠実度。どれも、この講義のどこかで困って、どこかで直したものです。

4 つの性能と、それを決めた回

  1. 感度 どれだけ弱い電波を受信できるか。雑音に埋もれない最小の入力で表す。決めたのは第11回の低雑音 RF 増幅器(雑音指数)と第9回の IF 増幅器。AF の音量を上げても感度は上がらない
  2. 選択度 周波数の近い多数の電波の中から、目的の電波だけを選び出す能力。決めたのは第7回の IF フィルタ(近接周波数)と第4・8回の RF 同調回路(影像周波数)
  3. 安定度 周波数と強さが一定の電波を、再調整せずに長時間受信し続けられる能力。決めたのは第13回の基準発振器と PLL、それと第10回の AGC(強さの変動)
  4. 忠実度 送られた信号を、出力側でどれだけ元のとおりに再現できるか。決めたのは第7回の IF 帯域(側波帯を削らない)、第2・14回の検波器、第3・9回の増幅器の飽和
四つの性能を自分で測る
四つの性能を自分で測る。感度(最小入力 dBm)、選択度(IF の通過特性と隣接局の減衰 dB)、安定度(30 分の周波数変化 Hz)、忠実度(元の音声との波形一致)の 4 つの測定画面

式も二つだけ復習します。一つは、今日いちばん多く使った局発の式。記録信号の中の局に合わせるたび、頭の中でこれを計算していたはずです。

選んだ局に対する局部発振周波数(上側局発)
f_{\mathrm{LO}} = f_{\mathrm{station}} + 455\ \mathrm{kHz}

fstation は受信したい局の周波数。999 kHz なら 1,454 kHz、1,134 kHz なら 1,589 kHz。差が常に 455 kHz になるので、IF フィルタと IF 増幅器はどの局でも同じものが使える。影像周波数は fstation + 910 kHz(999 kHz なら 1,909 kHz)で、これは RF 同調で落とす

もう一つは感度の見積もりです。第11回で、雑音は増幅器の入口で決まると学びました。受信機の入口に換算した雑音電力は、温度と帯域幅と雑音指数で決まります。信号がその雑音に対して必要な S/N だけ大きければ受信できる、という簡単なモデルで、最小の受信入力を見積もれます。

最小受信入力の見積もり(簡略モデル)
P_{\min} \approx k\,T_0\,B_{\mathrm{eq}}\,F\left(\frac{S}{N}\right)_{\mathrm{req}}

k はボルツマン定数、T0 は基準温度 290 K、Beq は等価雑音帯域幅(IF フィルタの幅に近い)、F は雑音指数の真数、(S/N)req は必要な信号対雑音比の真数。dB で計算すると kT0 = −174 dBm/Hz、Beq = 6 kHz で 10log(6,000) ≒ 37.8 dB、NF = 6 dB、必要 S/N = 10 dB なら Pmin ≒ −174 + 37.8 + 6 + 10 ≒ −120 dBm。注意: ここの S/N は IF の入口で測った搬送波対雑音の比。AM の音声出力の S/N は変調度や検波方式で変わるので、音声の S/N をそのまま代入してはいけない

最後に、受信カードを書きます。局の周波数、局発、IF と帯域幅、検波方式、受信した日時、入力モード(今日は「記録信号」)。これは「できた」の記念であると同時に、次に直すときの出発点です。SDR と呼ばれる受信装置をパソコンにつなげば、同じ入力アダプタに手元のアンテナからのライブの信号を流し込めます。それは「次の探究」として残しておきましょう。この講義の受信機は、その日が来ても、そのまま使えます。

先生が受信カードの感度の数値ではなく、帯域幅・判定基準・入力校正の欄を指し、条件も書いて初めて比べられると話している挿絵。
先生の一言。この数値は、どの条件で測った? 条件も書いて、初めて比べられる
受信成功の記録
受信成功の記録。受信カード: 局 999 kHz、局発 1,454 kHz(PLL)、IF 455 kHz/幅 6 kHz、検波 包絡線、AGC 入、スケルチ 切、入力モード 記録信号、日時、IF と AF の小さな波形
無線技士の女性の先生が、完成した受信機のブロック図(16 個のブロックに丸数字の回番号)を掲げた横で、スピーカーから出る声の音符を見ている
先生の一言。「この声は 16 個の部品を全部通ってきたから、どこを外しても聞こえ方が変わるの」

試験ではこう出る

試験ではここ

テーマ 1「受信機の性能の 4 語」: 陸特・アマチュアの工学で、説明文を読んで感度・選択度・安定度・忠実度のどれかを答える問題がほぼ毎回出ます。「多数の電波の中から目的の電波を選び出す」は選択度、「再調整せずに長時間受信できる」は安定度、「元の信号をどれだけ忠実に再現できるか」は忠実度、「どれだけ弱い電波を受信できるか」は感度。「近接周波数に対する選択度に最も影響するのは中間周波増幅器(IF フィルタ)」「高周波増幅器は感度と影像周波数選択度を改善する」も定番です。テーマ 2「感度の測定と周波数設計」: 一陸技の工学Aでは、標準信号発生器(SG)の出力 dBm と減衰量から受信機の感度を求める測定の問題、局発・IF・影像周波数の総合計算が出ます。今日の数値なら、局 999 kHz、局発 1,454 kHz、IF 455 kHz、影像 1,909 kHz、IF 帯域 6 kHz、雑音指数 6 dB、必要 S/N 10 dB で最小入力はおよそ −120 dBm。この一式を自分の受信機で説明できれば、総合問題は怖くありません。

ひっかけ

ひっかけ: 「低周波増幅器の利得を上げれば感度が良くなる」は誤りです。雑音も一緒に大きくなるだけで、感度は初段の雑音指数と帯域幅で決まります。「選択度は高周波増幅器で決まる」も誤りで、近接周波数の選択度は IF フィルタ、高周波同調が効くのは影像周波数です。「IF 帯域を狭くするほど忠実度が上がる」は逆で、側波帯が削れて忠実度は下がります。

今日の結果

第16回の結果

  • 聞こえたもの 実際の放送を録った未復調の信号から、自分で組んだ経路を通って 999 kHz の局の声が出た。別の局にも、局発を 455 kHz 上に置くだけで合わせられた
  • 見えたもの 入口に並ぶ複数局のスペクトルが、RF 同調・ミキサ・IF フィルタを経て 455 kHz の 1 局になり、検波・AF で音声波形になる道筋。ミキサ外し・IF 狭め・AGC 切で、過去の回の困りごとがそのまま戻ってきた
  • まだ困ること 次の探究へ。音質(IF 帯域と検波方式)、混信(RF 同調の段数と IF の肩)、弱い局(雑音指数と帯域幅)のどれを、どのブロックで、なぜ改善するか。手元の SDR からライブで入れる経路も、まだ試していない

最後の問いは「AGC とは何ですか」ではありません。「今の受信をもっとよくするなら、どのブロックを、なぜ変えますか」。受信カードの横に、あなたの答えを一行書いてください。それが書けるなら、スーパーヘテロダイン受信機の図は、もう暗記するものではなく、自分で組んだものです。16 回、おつかれさまでした。

無線技士の女性の先生が、受信カードの最後の空欄「次に直すブロックと、その理由」を指し、鉛筆を差し出している
先生の一言。「AGC とは何かじゃなくて、今の受信をもっとよくするならどのブロックをなぜ変えるか、それが書けたら卒業よ」

この回で解けるようになる問題

本文の「例題No.」は公益財団法人日本無線協会が公表している CBT 方式の国家試験の例題、「過去問」は同協会の公表試験問題です(日本無線協会 試験問題。同協会の利用条件に基づき掲載)。「オリジナル」は当サイトの作問です。

三陸特 ・ 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.1 問23

次の記述は、受信機の性能のうち何について述べたものか。下の番号から選べ。 送信された信号を受信し、受信機の出力側で元の信号がどれだけ忠実に再現できるかという能力を表す。

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二陸特 ・ 日本無線協会 令和元年6月期 無線工学 問21

次の記述は、受信機の性能のうち何について述べたものか。 多数の異なる周波数の電波の中から混信を受けないで、目的とする電波を選び出すことができる能力を表す。

この問題を解く
二陸特 ・ 日本無線協会 令和元年10月期 無線工学 問21

次の記述は、受信機の性能のうち何について述べたものか。 周波数及び強さが一定の電波を受信しているとき、受信機の再調整を行わず、長時間にわたって一定の出力を得ることができる能力を表す。

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4アマ ・ 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.1 問17

スーパヘテロダイン受信機の近接周波数に対する選択度特性に、最も影響を与えるものは、次のうちどれか。

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3アマ ・ ブートラボ オリジナル問題 無線工学 No.3 問23

次の記述の[ ]内に入れるべき字句の組合せで、正しいのはどれか。 スーパヘテロダイン受信機の高周波増幅器は、アンテナからの微弱な信号を増幅して受信機の[A]を改善するとともに、[B]による混信を軽減する働きをする。

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一陸技 ・ 日本無線協会 令和8年1月期 無線工学A 問16

図に示す構成による受信機の感度測定において、信号源として出力が電力表示(単位:〔dBm〕)の標準信号発生器(SG)を用いて測定した結果、SG の出力が −107〔dBm〕であった。このときの「受信機入力電圧」の値として、正しいものを下の番号から選べ。ただし、このときの「受信...

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