アンテナのすぐ後ろ、RF 同調回路の前に、0 / 10 / 20 dB を切り替えられる入力アッテネータ(減衰器)を足します。足すのは「小さくする部品」です。弱い局の回で育てた信号を、強い局のときだけわざと小さくします。
前回の困りごと
第11回で低雑音の高周波増幅器を入口に足し、弱い局のザーが小さくなりました。ところがその設定のまま、希望波の 999 kHz を止めて、代わりに 1,017 kHz と 1,035 kHz の強い局を 2 つ入れたところ、受信機は 999 kHz に合わせたままなのに声が聞こえてきます。しかも 2 つの局の声が混ざった、妙な声です。アンテナには 999 kHz の電波は入っていません。受信機の中で、入れていない周波数の信号が「作られた」ことになります。この回では、どこで、どんな計算で 999 kHz が生まれたのかを追います。
予想してから、1つ足す
ヒントは 2 つあります。1 つは、第6回のミキサです。2 つの周波数を「掛け算」すると、和と差の新しい周波数が生まれました。掛け算は入力の 2 乗の項から出てきます。もう 1 つは、第9回の飽和です。大きすぎる信号を入れると、増幅器の入出力の関係は直線ではなくなり、波形が曲がりました。曲がった入出力は、2 乗や 3 乗の項を持っています。ということは、強い 2 つの局が増幅器を曲がった領域まで押せば、増幅器がミキサのように振る舞って新しい周波数を作るのではないか。予想してみましょう。1,017 kHz と 1,035 kHz から、どんな計算で 999 kHz が出るでしょう。足しても引いても 999 にはなりません。2,052 と 18 です。では「2 倍して引く」と。足す部品は入力アッテネータです。第11回で入口の利得を上げたのが原因なら、入口で下げれば直るはず。ただし「弱い局が聞こえなくなるのでは」という心配もあります。観測点は、アンテナ端(A)、高周波増幅器の出口(B)、検波器入口(C)です。

動かしてみる
アッテネータは 0 dB のまま、まず現場検証です。アンテナ端(A)のスペクトルには 1,017 kHz と 1,035 kHz の 2 本だけが立っています。高周波増幅器の出口(B)を見ると、この 2 本のほかに、999 kHz と 1,053 kHz に新しい線が立っています。間隔はすべて 18 kHz で、2 本の外側に 1 本ずつ「はしご」が伸びた形です。増幅器の中で生まれたのは間違いありません。999 kHz の線は RF 同調回路を通り、ミキサで 455 kHz に移り、IF フィルタを通り、検波されます。受信機から見れば、本物の 999 kHz の局と区別がつきません。1,053 kHz の線も生まれていますが、こちらは RF 同調と IF フィルタで落とされるので聞こえません。

次に、強さとの関係を調べます。2 つの妨害波を同時に 1 dB ずつ下げていくと、999 kHz の線は 1 dB ではなく 3 dB ずつ下がります。10 dB 下げると 30 dB 下がりました。本物の信号なら 10 dB 下げれば 10 dB 下がるはずです。3 倍の速さで下がる成分は、入力の 3 乗から生まれている印です。逆に妨害波を上げていくと、999 kHz の線は 3 倍の速さで迫ってきて、やがて本物の局と同じ高さに並びます。

ここでアッテネータを 10 dB に入れます。妨害波は 10 dB 小さくなって増幅器に入り、999 kHz の架空の局は 30 dB 下がって、スピーカーからほぼ消えました。今度は希望波の 999 kHz を元どおり入れて、妨害波 2 つも同時に入れた状態で比べます。アッテネータ 0 dB では、本物の声の後ろで架空の局の混ざった声が聞こえます。10 dB では、本物の声は 10 dB 小さくなりますが AGC が利得を上げて音量を戻し、架空の局は 30 dB 下がったので、本物との差は 20 dB 広がって、ほとんど気になりません。「小さくしたら聞きやすくなった」のです。

ただし代償があります。妨害波を切って、第11回の弱い局だけを入れ、アッテネータを 0 dB と 10 dB で聞き比べます。10 dB のほうはザーが大きい。信号は 10 dB 小さくなったのに、受信機の内部雑音の床は変わらないので、S/N が 10 dB 悪くなったのです。第11回で 3 dB かけて稼いだ S/N を、10 dB まとめて手放したことになります。弱い局を聞くときはアッテネータ 0 dB、強い局が近くにあるときは 10 dB。最適な設定は、聞きたい局と周りの局の強さで変わります。


もう 1 つ、強い妨害波が 1 つだけのときも見ておきましょう。1,035 kHz の局だけを強く入れ、希望波 999 kHz を弱く入れます。相互変調の相手がいないので架空の局は生まれませんが、希望波の声が小さくなり、ザーに埋もれます。AGC が強い妨害波の大きさに反応して利得を下げ、増幅器が飽和気味になって希望波の利得が食われたのです。これは別の現象で、感度抑圧と呼びます。さらに注意して聞くと、希望波の声の後ろに、妨害波の局の声がかすかに乗っていることがあります。妨害波の変調が、曲がった増幅器を通して希望波の搬送波に乗り移ったのです。これも別の名前がつきます。
シミュレータで妨害波 2 波を入れ、アッテネータ 0 dB で 999 kHz の線の高さを読んでください。次に妨害波のレベルを 1 dB 下げ、線が 3 dB 下がることを確かめます。3 回繰り返して「1 対 3」の関係をノートに書きましょう。頭の中で追う人は、2 × 1,017 − 1,035 と 2 × 1,035 − 1,017 を計算し、さらに妨害波を 1,017 と 1,026 kHz に変えたらどこに線が立つか(2 × 1,017 − 1,026 = 1,008 kHz)を予想してから確かめてください。
名前をつける
増幅器の入出力が直線から外れることを非線形(非直線性)と言います。直線なら出力は入力の定数倍で、周波数は増えません。曲がっていると、出力は入力の 1 乗、2 乗、3 乗の項の和で近似できます。2 乗の項は、第6回のミキサと同じく 2 つの周波数の和と差を作ります。3 乗の項は、片方を 2 倍してもう片方を引いた周波数を作ります。これが相互変調で、生まれた成分を相互変調積と呼びます。次数は周波数の係数の絶対値の和で数えます。2f1 − f2 は 2 + 1 = 3 で 3 次です。

直線なら a1 の項だけ。a2 の項が和と差(2 次)、a3 の項が 2 倍して引く成分(3 次)を作る。入力 v が大きいほど高次の項が目立つ
2 つの妨害波 f1・f2 から、それぞれを 2 倍して相手を引いた周波数に成分ができる。2 波の外側に、同じ間隔で 1 本ずつ並ぶ
1,017 kHz と 1,035 kHz の 3 次相互変調積は 999 kHz と 1,053 kHz。前者は希望波とぴったり同じ位置に落ちる。2 次の和と差(2,052 kHz・18 kHz)は遠いので RF 同調と IF フィルタで落ちる
「入力を 1 dB 下げると 3 次の成分は 3 dB 下がる」のは、3 乗の項だからです。電圧が 1/10 なら 3 乗は 1/1000、電力の dB で言えば 10 dB に対して 30 dB です。この性質があるので、入口でわずかに減衰するだけで相互変調は大きく減ります。アッテネータの減衰量は、第3回・第9回の利得と同じ dB で数え、符号が負なだけです。20 dB の減衰は電圧で 1/10、電力で 1/100 です。抵抗だけで作る減衰器は、入出力のインピーダンスを 50 Ω にそろえたまま決まった dB だけ落とすように抵抗値を選びます。

強い妨害波が起こす 3 つの現象
| 何波で起きる | 生まれる成分 | 聞こえ方 | |
|---|---|---|---|
| 相互変調 | 妨害波 2 波(f1・f2) | 2f1 − f2 や 2f2 − f1(3 次)。希望波と同じ周波数に落ちると妨害 | 送信していない周波数に、2 局の声が混ざった架空の局が現れる |
| 混変調 | 希望波 fd と妨害波 fu(変調 fm) | fd ± fm(3 次)。妨害波の変調が希望波の搬送波に乗る | 希望波の声の後ろに、妨害波の局の声が乗って聞こえる |
| 感度抑圧 | 希望波と強い妨害波 1 波 | 新しい周波数は作らない。利得が食われる | 希望波の声が小さくなり、ザーに埋もれる |

試験ではこう出る
一陸技の工学A では、AM スーパヘテロダイン受信機の相互変調と混変調を穴埋めで問う問題が出ます。問われるのは、2f1 − f2 と 2f2 − f1 が「3 次」の相互変調積であること、混変調は妨害波の変調信号で希望波の搬送波が「変調」を受ける現象で、生まれる成分が fd ± fm であることです。今日の数値なら 2 × 1,017 − 1,035 = 999 kHz を自分で出せれば、次数は係数の和 3 だとすぐ分かります。同じ工学A では、受信機の相互変調特性の測定法(妨害波 2 波を希望波から Δf と 2Δf だけ離して入れる二信号法)や、抵抗減衰器の抵抗値を求める問題も出ます。減衰器の問題は、まず dB を電圧比に直すところが最初の関門で、20 dB なら電圧比 10、14 dB なら電圧比 5(log 2 = 0.3 を使って 0.7 = 1 − 0.3)です。3 アマでも、強い妨害波の変調が希望波に乗る現象を混変調と呼ぶ問題が出ます。
2f1 − f2 を「2 次」と呼んでしまう誤りが定番です。次数は f1 と f2 の係数の絶対値の和で、2 + 1 = 3 の 3 次です。2 次は f1 ± f2 で、これは第6回のミキサが作った和と差と同じもの。希望波の近くに落ちて困るのは 3 次のほうです。また、相互変調(2 波で架空の局)と混変調(妨害波の変調が希望波に乗る)を入れ替えた選択肢にも注意してください。
今日の結果
第12回の記録
周波数が勝手に動いていくのは、第5回で作った局部発振器が温度で揺れているからです。次回は局発にわざと温度ドリフトを与えて IF フィルタから信号が外れていく様子を見たあと、安定な基準と PLL で押さえ込みます。
この回で解けるようになる問題
本文の「例題No.」は公益財団法人日本無線協会が公表している CBT 方式の国家試験の例題、「過去問」は同協会の公表試験問題です(日本無線協会 試験問題。同協会の利用条件に基づき掲載)。「オリジナル」は当サイトの作問です。
次の記述は、AM(A3E)スーパヘテロダイン受信機において生じることのある、相互変調及び混変調について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。 (1) 受信機に周波数が f1〔Hz〕及び f2〔Hz〕の通過帯域外にある強力な妨害波が混入し...
この問題を解く次の記述は、FM(F3E)受信機の相互変調特性の測定法について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。ただし、法令等で、希望波信号のない状態で相互変調を生じる関係にある各妨害波を受信機入力電圧 1.78〔mV〕で加えた場合において、雑音抑...
この問題を解く図の回路に示す抵抗素子 R1〔Ω〕及び R2〔Ω〕で構成される抵抗減衰器において、減衰量を 14〔dB〕にするための抵抗素子 R2 の値を表す式として、正しいものを下の番号から選べ。ただし、抵抗減衰器の入力端には出力インピーダンスが Z0〔Ω〕の信号源、出力端には Z0〔Ω...
この問題を解くAM ラジオ受信機に、希望波と異なる周波数の強力な妨害波が加わると、希望波が妨害波の変調信号によって変調され、BCI を起こすことがある。この現象を何変調と呼んでいるか。
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