RF 同調回路の後ろ、ミキサの前に低雑音の高周波増幅器を足します。あわせて今回から、シミュレータの雑音モデルを有効にします。アンテナから入ってくる熱雑音と、各段が自分で足す内部雑音を、別々に表示したり切ったりできます。
前回の困りごと
第10回の AGC で、弱い局も強い局もナレーションの音量がそろいました。ところが聞き比べると、弱い局のほうは声の後ろで「ザー」が鳴り続けています。AGC は利得を上げて弱い局の声を大きくしましたが、ザーも同じ倍率で大きくなっていたのです。音量つまみでも AGC でも、声とザーの「割合」は変わりません。音量とは別の物差しが要ります。そして、ザーがどこから来るのかが分からないと、どの部品を直せばよいのかも分かりません。
予想してから、1つ足す
まず予想です。ザーの出どころは、(a) アンテナから信号と一緒に入ってくる、(b) 受信機の中の部品が自分で作っている、(c) その両方。どれでしょう。そして、もし (b) なら、どの部品の雑音がいちばん効くと思いますか。足す部品は、RF 同調回路とミキサの間に入れる高周波増幅器です。ただし条件があります。自分が足す雑音がとても少ない「低雑音」の増幅器で、利得は 10 dB(電力で 10 倍)とします。第9回の中間周波増幅器も増幅器でしたが、置く場所がまったく違います。あちらは IF フィルタの後、こちらは受信機の入口のすぐ後ろです。「同じ増幅器なのに、入口に置くと何が変わるのか」。これが今日の問いです。観測点は、アンテナ端(A)、高周波増幅器の出口(B)、検波器入口(C)です。今日はそれぞれで、スペクトルの「信号の線」と「雑音の床」を別々に読みます。

動かしてみる
まだ増幅器は入れずに、雑音モデルだけ有効にします。強い局と弱い局を AGC で同じ音量にそろえ、検波器入口(C)のスペクトルを並べます。どちらも 455 kHz に信号の線が同じ高さで立っています。音量が同じですから当然です。違うのは床です。強い局では信号の線が床より 40 dB 高く、弱い局では 10 dB しか高くありません。この「線と床の差」が、耳で聞いていた「ザーの割合」です。声の電力を雑音の電力で割ったものを S/N(信号対雑音比)と呼びます。音量が同じでも、S/N は 30 dB 違っていたのです。


次に床の出どころを調べます。シミュレータで「アンテナからの雑音」を切ると、床は少し下がりますが残ります。今度は「受信機内部の雑音」を切ると、床は大きく下がります。両方切ると床は消えます。予想 (c) が正しく、しかも今日の弱い局では内部雑音のほうが大きいことが分かりました。アンテナからの雑音の正体は、抵抗の中で電子が熱で揺れる熱雑音です。常温(290 K)で帯域幅 6 kHz に入る熱雑音の電力は約 2.4 × 10 のマイナス 17 乗 W、−136 dBm で、これより下の床は作れません。内部雑音は、ミキサや増幅器のトランジスタが同じように自分で作っている雑音です。段ごとに切ってみると、ミキサの雑音がいちばん大きく、次に中間周波増幅器でした。

では低雑音の高周波増幅器を入口に足します。利得は 10 dB、自分が足す雑音は小さめです。弱い局で AGC を働かせたまま、検波器入口(C)を見ます。信号の線の高さは AGC のおかげで変わりません。しかし床が約 3 dB 下がりました。耳で聞いても、ザーが明らかに小さくなります。音量は同じなのに聞き取りやすい。これが「音を大きくする」と「S/N をよくする」の違いです。なぜ床が下がったのでしょう。ミキサの雑音は前と同じだけ出ているはずです。種明かしは、信号とアンテナ雑音が増幅器で 10 倍になってミキサに入るので、ミキサが足す雑音が相対的に 10 分の 1 の重さになったことです。後ろの段の雑音は、前の段の利得で割って入口に換算されるのです。

念のため、置き場所を入れ替えてみます。同じ増幅器を IF フィルタの後ろ、第9回の中間周波増幅器の隣に置くと、床は 1 dB も下がりません。ミキサの雑音はすでに足されたあとで、それを信号と一緒に増幅しているだけだからです。最後に、外来雑音の実験です。シミュレータで、アンテナに入る雑音を熱雑音の 20 dB 上まで持ち上げます。夜の中波帯で遠くの雷の空電や街の人工雑音が入ってくる状態です。この条件で高周波増幅器を入れたり外したりしても、S/N はほとんど変わりません。床の大半が外から来ているので、増幅器は信号も外来雑音も同じだけ大きくするだけです。この場合の対策は受信機の中ではなく、アンテナの向きや設置場所、雑音源から離れることになります。


シミュレータで弱い局を AGC で聞きながら、「内部雑音」の段ごとのスイッチを 1 つずつ切ってください。どの段を切ったときに床がいちばん下がるかが、その受信機の雑音の主犯です。次に高周波増幅器の利得を 10 dB から 20 dB に上げ、床がさらに下がるが下がり方は小さいことを確かめます。頭の中で追う人は、「後段の雑音 ÷ 初段の利得」を、利得 10 倍と 100 倍で計算してみてください。
名前をつける
増幅器が雑音を足す度合いに名前をつけます。入口の S/N を出口の S/N で割ったものを雑音係数 F(真数)、それを dB にしたものを雑音指数 NF と呼びます。雑音を足さない理想の増幅器なら F = 1、NF = 0 dB です。信号と入口の雑音は同じ利得で増えるので、S/N が悪くなる分はすべて増幅器自身の内部雑音の分です。今日の低雑音増幅器は F = 2(NF = 3 dB)、ミキサから検波器までのまとめた部分は F = 5(NF = 7 dB)、という設定でした。
F は真数、NF は dB。入口の S/N が出口の S/N の何倍か。雑音を足さない理想では F = 1、NF = 0 dB。入口の雑音は常温の熱雑音とする
2 つの段を縦続したときの合成は、今日の実験そのものを式にしたものです。1 段目の F1 に、2 段目の雑音の寄与 F2 − 1 を 1 段目の利得 G1 で割って足します。「後段の雑音は初段の利得で割って入口に換算する」ことを表しています。F と G はどちらも真数で入れるのが約束です。

F1・F2 は各段の雑音係数(真数)、G1 は初段の電力利得(真数)。2 段目の寄与は初段の利得で割られる。初段の利得が大きいほど、後段の雑音は効かなくなる
今日の数値で解く
- 初段に低雑音増幅器 F1 = 2(3 dB)、G1 = 10(10 dB)、後段 F2 = 5(7 dB)。F = 2 + (5 − 1)/10 = 2 + 0.4 = 2.4。NF = 10 log 2.4 ≒ 3.8 dB。増幅器を入れる前の 7 dB から約 3.2 dB 改善
- 初段の利得を 20 dB にすると G1 = 100。F = 2 + 4/100 = 2.04。NF ≒ 3.1 dB。改善はするが、10 dB から 20 dB に上げた分の効果は 0.7 dB だけ。初段の雑音 F1 が下限を決める
- 順番を逆にすると 雑音の大きい段(F = 5、G = 10)を先に、低雑音段(F = 2)を後にすると、F = 5 + (2 − 1)/10 = 5.1、NF ≒ 7.1 dB。入れないときより悪い。低雑音の段は入口に置く

最後に感度です。受信機の感度とは、決められた S/N で聞こえるために必要な最小の入力の強さのことです。入力の雑音の床(熱雑音 kTB)に受信機の雑音指数が乗った高さが受信機の床なので、雑音指数が 3 dB よくなれば、半分の電力の信号まで同じ S/N で聞けます。「感度がよい」とは「利得が大きい」ことではなく、「雑音の床が低い」ことなのです。ミキサを含む合成や、帯域幅が段ごとに違う場合は条件が増えるので、試験の基本計算では今日のように整合した線形増幅器の 2 段で考えます。

試験ではこう出る
一陸技の工学A では、雑音指数と利得が dB で与えられた 2 つの増幅器を縦続し、合成の雑音指数や、出力の S/N を等しくするための入力レベルの差を求める問題が出ます。手順は 3 段です。(1) dB を真数に直す(3 dB → 2、7 dB → 5、10 dB → 10)。(2) F = F1 + (F2 − 1)/G1 に真数で代入する(2 + 4/10 = 2.4)。(3) 答えを dB に戻す(10 log 2.4 ≒ 3.8 dB)。出力の S/N は「入力の信号レベルから雑音指数を引いたもの」に比例するので、受信機の雑音指数が 3.2 dB 違えば、同じ S/N に必要な入力も 3.2 dB 違います。同じ工学A で、受信機の感度測定として標準信号発生器の出力 dBm を受信機入力電圧 µV に直す計算も出ます。−107 dBm は 2 × 10 のマイナス 14 乗 W で、50 Ω の終端電圧は √(P × R) = 1 µV、整合しているので信号源の開放電圧はその 2 倍の 2 µV です。
縦続の式に dB のまま入れるのが最多の誤りです。3 + (7 − 1)/10 = 3.6 dB という計算は意味を持ちません。F も G も真数に直してから代入し、最後に dB に戻します。もう 1 つ、「利得を上げれば感度がよくなる」も誤りです。感度を決めるのは雑音指数(雑音の床)で、利得を上げても信号と雑音が一緒に大きくなるだけです。
今日の結果
第11回の記録
入口に利得を足したことは、弱い局には薬でしたが、強い局には毒になりそうです。次回は、増幅器を大きすぎる信号で押すと起きる非線形のひずみと、そこから生まれる「架空の局」に名前をつけ、入口に減衰器を足して対処します。
この回で解けるようになる問題
本文の「例題No.」は公益財団法人日本無線協会が公表している CBT 方式の国家試験の例題、「過去問」は同協会の公表試験問題です(日本無線協会 試験問題。同協会の利用条件に基づき掲載)。「オリジナル」は当サイトの作問です。
図(a)及び(b)に示す二つの回路の出力の信号対雑音比(S/N)が等しいとき、それぞれの入力信号レベルを S1〔dB〕及び S2〔dB〕とすれば、S2-S1 の値として、最も近いものを下の番号から選べ。ただし、各増幅器の入出力端は整合しており、両回路の入力雑音は、熱雑音のみ...
この問題を解く図に示す構成による受信機の感度測定において、信号源として出力が電力表示(単位:〔dBm〕)の標準信号発生器(SG)を用いて測定した結果、SG の出力が −107〔dBm〕であった。このときの「受信機入力電圧」の値として、正しいものを下の番号から選べ。ただし、このときの「受信...
この問題を解く図に示す通信回線において、受信機の入力に換算した C/N が 65〔dB〕のときの送信機の送信電力 P〔dBm〕の値として、最も近いものを下の番号から選べ。ただし、送信及び受信アンテナの絶対利得を共に 40〔dBi〕、送信及び受信給電線の損失を共に 4〔dB〕、両アンテナ間...
この問題を解く