無線通信ブートラボ
第4回

聞きたい局だけ、入口で選ぶ

検波器の前にコイルと可変コンデンサの同調回路を置き、999 kHz の局だけを優勢にする。同調・共振・Q・帯域幅に名前をつけ、直接検波ラジオを完成させる。
この回でつくる

この回でつくるのは可変 RF 同調回路です。コイルとコンデンサを検波器の前に置き、999 kHz だけを通す「周波数の門」を立てます。これで直接検波ラジオが、いったん完成します。

前回の困りごと

前回、受信機は自分のスピーカーで声を鳴らせるようになりました。でも 2 つ目の局を入れると、2 人の声と 9 kHz のピー音が重なって、どちらも聞き取れませんでした。利得つまみをどう回しても、2 局の比率は変わりません。増幅器は入ってきたものを公平に大きくする部品で、選ぶ力はないのです。選ぶなら、検波器に入る前、できれば受信機の入口で選ぶしかありません。

予想してから、1つ足す

今日足すのは、コイル L とコンデンサ C を並列につないだ回路です。この組み合わせは、ある 1 つの周波数でだけインピーダンスが大きくなり、その周波数の信号だけを大きな電圧で検波器へ渡します。離れた周波数ではインピーダンスが小さく、信号はグラウンドへ逃げてしまいます。コンデンサは可変にして、つまみで容量を動かせるようにします。足す前に予想してください。つまみを回すと、何が動くでしょう。隣の 1,008 kHz の局はどのくらい弱くなるでしょう。遠く離れた 1,242 kHz の局とでは差があるでしょうか。

今日の受信機(第4回)
今日の受信機。模擬アンテナ入力(灰)→ RF 同調回路(橙: 並列の L と可変 C)→ 包絡線検波器(灰)→ 低周波増幅器(灰)→ スピーカー。観測端子(青)は同調回路の前後

動かしてみる

コイルは 200 μH に固定し、可変コンデンサを回していきます。観測端子を同調回路の後ろにしてスペクトルを見ると、1 つの山が周波数軸の上をすーっと動きます。容量を大きくすると山は低い周波数へ、小さくすると高い周波数へ。127 pF のところで山の頂点が 999 kHz にぴたりと乗りました。449 pF では 531 kHz、56 pF では 1,500 kHz。中波放送の帯域を 1 つのつまみで端から端まで動けます。

可変コンデンサの等間隔の容量目盛から周波数目盛へ対応線を引き、周波数側の目盛が等間隔にならないことを示した図。
可変 C の目盛りは等間隔にならない。f₀ は 1/√C に比例する

山を 999 kHz に合わせたまま、観測端子を同調回路の前と後ろで切り替えてみます。前では 999 kHz の縞と、あれば他の局の縞が同じ高さで並んでいます。後ろでは、999 kHz の縞だけが背を伸ばし、離れた縞は低く沈みます。つまみを少しずらして山を 990 kHz に置くと、999 kHz の縞は肩の上へ下がり、スピーカーの声も小さくなります。選局とは、この山の頂点を聞きたい局の上に正確に置く作業です。

搬送波が通過特性の中心にあるときと、中心からずれたときの上下側波帯の残り方を比較した図。
離調すると、左右が違って削れる。声の高い成分が片側だけ消える
つまみで山が動く
つまみで山が動く。L = 200 μH 固定で、C = 449 pF / 127 pF / 56 pF のときの通過特性の山が 531 / 999 / 1,500 kHz に移る。3 本の山を重ねて描く

山を 999 kHz に合わせて、前回と同じ 2 局を入れます。スピーカーからは 999 kHz の局がはっきり優勢になり、1,008 kHz の局は後ろに下がりました。でも消えてはいません。耳をすませば、まだ隣の声が聞こえます。スペクトルで確かめると、1,008 kHz の搬送波は 999 kHz に比べて 3 dB ほどしか下がっていません。山の幅が広くて、9 kHz 離れた隣はまだ山の肩の上にいるのです。

今度は 1,242 kHz に別の局を置きます。こちらは 27 dB ほど下がって、スピーカーからはほとんど聞こえません。同じ「別の局」でも、山の中心からの距離によって、門の効き方がまるで違います。

希望局と隣の局
希望局と隣の局。999 kHz を中心にした通過特性の山(橙)に、入力スペクトルの 3 本の縞 999 / 1,008 / 1,242 kHz(灰)を重ねる。1,008 kHz は山の肩で約 −3 dB、1,242 kHz は裾で約 −27 dB

では、コイルの損失を減らして山を鋭くすればよいのでしょうか。山の鋭さを決める数を Q と呼び、いまの回路は Q が 50 です。これを 200 まで上げると、1,008 kHz の局は −11 dB まで下がり、ほとんど聞こえなくなりました。ところが同時に、999 kHz の局の声がこもりはじめました。音声の高い成分が削られています。山が鋭すぎて、声が入っている搬送波の両脇の部分まで一緒に切ってしまったのです。

もう 1 つ、困ったことが起きました。山を 1,500 kHz の局に合わせ直すと、Q は同じ 50 なのに、山の幅が 999 kHz のときより広がりました。高い周波数では隣の局がさらに通りやすくなります。つまみの位置によって、同じ回路でも選びやすさが変わってしまうのです。

同じ Q でも幅が違う
同じ Q でも幅が違う。Q = 50 で中心 999 kHz の山(幅 20 kHz)と、中心 1,500 kHz の山(幅 30 kHz)を同じ縮尺で並べる。隣の局の 9 kHz 間隔を両方に描く
やってみよう

シミュレータでは、可変 C を回して山を 999 kHz に合わせ、第 2 局の周波数を 1,008 / 1,100 / 1,242 kHz と変えて、スペクトルで何 dB 下がるかを読んでください。次に Q を 50 → 200 に上げて、隣の局の減り方と希望局の音のこもり方を聞き比べます。実物派は、バーアンテナコイルとポリバリコンで同調回路を作り、ゲルマニウムラジオとして鳴らしてみてください。それが今日完成した受信機そのものです。

名前をつける

コイルとコンデンサの並列回路が、ある周波数で特別な振る舞いをする現象が 共振 です。その周波数を共振周波数と呼び、受信機では「希望する局の周波数に共振周波数を合わせる」操作を 同調 と言います。今日つまみで山を動かしていたのは、同調の操作そのものでした。

共振回路には直列と並列の 2 種類があります。今日使った並列回路は、共振周波数でインピーダンスが最大になります。だから 999 kHz の信号は逃げ場がなく、大きな電圧のまま検波器へ渡ります。離れた周波数ではインピーダンスが小さくなり、信号はコイルかコンデンサを通ってグラウンドへ逃げます。直列回路は逆で、共振周波数でインピーダンスが最小、流れる電流が最大になります。どちらも共振周波数の式は同じで、使い分けは「通したい信号を電圧で受けるか、電流で受けるか」で決まります。

LC 共振回路の共振周波数
f_0=\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}

L はヘンリー、C はファラド。L = 200 μH、C = 127 pF なら LC = 2.54×10⁻¹⁴、その平方根は 1.59×10⁻⁷、2π で割った逆数が約 999 kHz。C を 4 倍にすると √4 = 2 で f₀ は半分になる。4 分の 1 ではない

山の鋭さは Q で表します。Q が大きいほど山が鋭く、通す幅が狭くなります。「幅」は、頂点から 3 dB 下がった 2 点の間隔で測り、これを帯域幅と呼びます。

同じ通過特性を電圧軸と電力軸で並べ、0.707 倍と 0.5 倍がどちらも −3 dB に対応することを示した図。
−3 dB は高さが半分? 電圧なら 1/√2、電力なら 1/2
Q と帯域幅
Q=\frac{f_0}{B_{3\mathrm{dB}}}\qquad\Longleftrightarrow\qquad B_{3\mathrm{dB}}=\frac{f_0}{Q}

単一の共振回路で成り立つ関係。f₀ = 999 kHz、Q = 50 なら帯域幅は約 20 kHz。f₀ を 1,500 kHz にすると、同じ Q = 50 でも帯域幅は 30 kHz に広がる。Q を 200 にすれば 5 kHz

ここで、今日の 2 つの困りごとが式で説明できます。1 つ目。隣の局を消すには帯域幅を 9 kHz よりずっと狭くしたいのですが、AM の声は搬送波の両脇に 3 kHz ずつ、合計 6 kHz の幅で入っています。帯域幅を 5 kHz にすると、声の高い成分まで削ってこもります。「隣は消したい、声は残したい」の両方を、1 つの山で同時に満たすのは難しいのです。2 つ目。帯域幅は f₀ を Q で割った値なので、f₀ が高くなるほど同じ Q でも幅が広がります。つまみの位置で選びやすさが変わるのは、この式のとおりです。

受信機の性能として、近い周波数の局をどれだけ分けられるかを 選択度 と呼びます。今日の実験は「同調回路 1 段で、しかも受信周波数ごとに変わる選択度」の限界を見せてくれました。この限界を越える方法が、第5回からの大きなテーマになります。

無線技士の女性の先生が、小さなラジオ基板のポリバリコン(可変コンデンサ)のつまみを指で回している
先生の挿絵。ポリバリコンのつまみを回しながら「帯域幅は f₀ を Q で割った値だから、高い局に合わせると同じ Q でも門が広くなってしまうの」
直接検波ラジオができた
直接検波ラジオができた。第1〜4回で足したブロックを回番号つきで並べる: ①模擬アンテナ入力 → ④RF 同調回路 → ②包絡線検波器 → ③低周波増幅器+出力段 → スピーカー。全ブロック灰色で、各ブロックに回の番号

試験ではこう出る

試験ではここ

共振周波数の式は、3アマ・4アマ・一陸技の基礎で、形を変えて必ず出ます。3アマでは「C を 4 倍にすると f₀ は何倍か」で、答えは 1/2 倍。一陸技の基礎では直列共振回路の図を示し、共振周波数、共振時の電流、Q、帯域幅の関係を空欄で問います。計算するなら、L = 200 μH と C = 127 pF で f₀ ≒ 999 kHz、Q = 50 で帯域幅 20 kHz、という今日の数字を自分で再現できれば十分です。工学 A では、受信機の性能として選択度の定義を問う問題と、「スーパーヘテロダイン受信機の近接周波数に対する選択度に最も影響するのは中間周波増幅器(IF フィルタ)」という知識問題が出ます。今日の受信機にはまだ中間周波増幅器がありません。だからこそ、RF 同調回路だけでは選択度に限界がある、という体験が答えの根拠になります。

ひっかけ

共振のとき「電流が最大」になるのは直列共振回路の話です。今日使った並列共振回路では、共振周波数でインピーダンスが最大になり、回路に流れ込む電流は最小になります。問題の図で L と C が 1 本の輪に並んでいれば直列、縦に 2 本並んでいれば並列。「共振=電流最大」と丸暗記していると、並列の図で逆を選びます。

今日の結果

第4回の記録

  • 聞こえたもの 999 kHz の局が優勢になった。1,242 kHz の局はほぼ消えたが、1,008 kHz の隣の局は小さく残る。Q を上げると隣は消えるが、希望局の声がこもる
  • 見えたもの 可変 C で動く通過特性の山(531〜1,500 kHz)。隣の局が −3 dB、離れた局が −27 dB の差。同じ Q = 50 で 999 kHz では幅 20 kHz、1,500 kHz では 30 kHz
  • まだ困ること RF 同調回路 1 段では、隣の局を消しつつ声を残す鋭い選択度が作れない。しかも受信周波数によって選びやすさが変わる

これで、アンテナ入力・同調・検波・増幅がそろった直接検波ラジオが完成しました。次回は少し変わった一手を打ちます。受信機の中に、自分で「もう 1 つの波」を作ります。音はまだ良くなりませんが、第6回以降の大逆転の仕込みです。

この回で解けるようになる問題

本文の「例題No.」は公益財団法人日本無線協会が公表している CBT 方式の国家試験の例題、「過去問」は同協会の公表試験問題です(日本無線協会 試験問題。同協会の利用条件に基づき掲載)。「オリジナル」は当サイトの作問です。

3アマ ・ ブートラボ オリジナル問題 無線工学 No.2 問18

コイル L とコンデンサ C からなる直列共振回路において、コンデンサの静電容量を 4 倍にすると、共振周波数はもとの何倍になるか。

この問題を解く
一陸技 ・ 日本無線協会 令和8年7月期 無線工学の基礎 問8

次の記述は、図に示す直列共振回路について述べたものである。[ ]内に入れるべき値の正しい組合せを下の番号から選べ。 (1) 共振周波数 f₀ は、f₀ = [A]〔Hz〕である。 (2) 尖鋭度 Q は、Q = [B]である。 (3) f₀ における回路の電流を I₀〔A〕...

この問題を解く
4アマ ・ 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.3 問13

図に示す並列共振回路において、インピーダンスを Z、電流を i としたとき、共振時にこれらの値はどのようになるか。

この問題を解く
3アマ ・ ブートラボ オリジナル問題 無線工学 No.1 問24

受信機の性能を表す「選択度」の説明として、正しいのは次のうちどれか。

この問題を解く