無線通信ブートラボ
第8回

違う局なのに、同じ入口を通ってくる

999 kHz から 910 kHz も離れた 1,909 kHz の局が、IF フィルタを素通りして聞こえてくる。局発を挟んだ鏡の位置にいる「影像周波数」の正体を追い、変換する前に止めます。
この回でつくる

人工的に 1,909 kHz の妨害局を入れて、IF フィルタでは分けられないことを確かめます。そのうえで、第4回の同調回路にもう一段を足し、ミキサに入る前に妨害局を減らします。

前回の困りごと

前回、IF フィルタの帯域を 6 kHz に絞って、隣の 990 kHz と 1,008 kHz の局を退けることができました。希望局の声だけがはっきり聞こえます。ところが、ある局を入れたとたん、話が変わりました。999 kHz からずっと離れた 1,909 kHz の局です。隣接局より 100 倍も遠いのに、IF フィルタを素通りして、希望局の声に重なって聞こえてきます。帯域を 1 kHz まで狭めても、消えるのは希望局の高い声だけで、妨害局はそのまま残ります。

予想してから、1つ足す

まず予想してください。1,909 kHz の局は、受信機のどこで、どんな周波数になって、希望局と重なっているのでしょう。ヒントは前回の式、f_IF = |f_LO − f_RF| です。局発は 1,454 kHz でした。1,909 から 1,454 を引いてみてください。答えが見えた人は、次に「どこで止めるべきか」を考えます。IF フィルタの後ろ、IF フィルタそのもの、それともミキサに入る前。

今日の受信機:変換する前にもう一段
今日の受信機。入口の同調回路の後ろに、橙色の「RF 同調 2 段目」が追加された。アンテナ入力には 999 kHz の希望局と 1,909 kHz の妨害局が並んで入っている

図を見てください。今日足すのは、ミキサより前、第4回の同調回路のすぐ後ろに置く 2 段目の同調回路です。IF 側には何も足しません。足す前に、まず妨害の正体を観測で確かめましょう。

動かしてみる

アンテナ入力に、999 kHz の希望局と 1,909 kHz の妨害局を同じ強さで入れます。観測端子 A のスペクトルには 2 本の線が、910 kHz 離れて立っています。これほど離れていれば、第4回の同調回路でもある程度は減りますが、Q が 50 程度の 1 段では妨害局は 40 dB 近く残ります。ミキサの出口、観測端子 C を見ましょう。希望局は 1,454 − 999 = 455 kHz に落ちています。妨害局は 1,909 − 1,454 = 455 kHz。同じ場所です。

局発を挟んだ鏡の位置
局発を挟んだ鏡の位置。周波数軸上に 999 kHz の希望局、1,454 kHz の局発、1,909 kHz の妨害局。局発から両側へ同じ 455 kHz の寸法線

周波数軸を見ると、理由が一目で分かります。局発 1,454 kHz を真ん中に置くと、999 kHz は左に 455 kHz、1,909 kHz は右に 455 kHz。ちょうど鏡に映したような位置関係です。ミキサは「局発との差」を作る回路なので、左右どちらから来ても差は 455 kHz になります。ミキサには、入ってきた波が局発より上にいたか下にいたかを区別する力がないのです。

二つとも 455 kHz になる
二つとも 455 kHz になる。999 kHz と 1,909 kHz の 2 本が、ミキサで同じ 455 kHz の 1 本に重なる変換経路の重ね合わせ

IF フィルタの出口、観測端子 D を見ます。455 kHz の線は 1 本に見えますが、その中に 2 つの局の側波帯が重なっています。帯域幅つまみを 6 kHz から 1 kHz に絞っても、2 つの局は同じ比率で削られるだけで、分離はまったく進みません。声はこもり、妨害はそのまま。これが「IF では見分けられない」ということです。前回の予想で「IF フィルタをもっと鋭くすれば混信は全部防げる」と考えた人は、ここで考えを改める番です。

IF では見分けられない
IF では見分けられない。IF フィルタの通過帯域の中に、希望局と妨害局の側波帯が完全に重なっている。帯域を狭めても両方が同じだけ削られる

では、ミキサに入る前に戻りましょう。2 段目の同調回路を 999 kHz に合わせて追加します。観測端子 A の後ろ、ミキサの直前のスペクトルを見ると、1,909 kHz の線が 1 段のときよりさらに 37 dB ほど下がり、2 段合わせて 70 dB を超える減衰になりました。ミキサの出口では、妨害局の 455 kHz 成分が希望局のはるか下に沈みます。音を聞くと、妨害局の声は消え、希望局だけが残りました。IF では分けられなかった 2 つの局が、変換する前なら分けられたのです。

希望局より 40 dB 強い妨害局が、RF 同調 1 段で 37 dB 減衰しても変換後に 3 dB 残る収支を縦棒で示した図。
何 dB 強い妨害なら、残ってしまう? 減衰量より強い妨害は 1 段では消しきれない
変換する前なら分けられる
変換する前なら分けられる。999 kHz の同調曲線を 1 段と 2 段で重ね、1,909 kHz での減衰が約 37 dB から 74 dB に深くなる

最後に、思考実験を 1 つ。もし中間周波数が 455 kHz ではなく、もっと高かったらどうでしょう。IF を 10.7 MHz にすると、局発は 11,699 kHz、妨害局になる周波数は 999 + 2 × 10,700 = 22,399 kHz です。希望局から 21 MHz 以上も離れるので、入口の同調回路でいとも簡単に落とせます。IF を高くするほど、鏡の向こう側は遠ざかるのです。ただし IF が高いと、前回の 6 kHz のような狭いフィルタを作るのが難しくなります。この折り合いの付け方が、スーパヘテロダイン受信機の設計の面白さです。

IF を高くすると何が変わる?
IF を高くすると何が変わる? IF 455 kHz では妨害局が 1,909 kHz(910 kHz 先)、IF 10.7 MHz では 22,399 kHz(21.4 MHz 先)。同調曲線との距離の比較
やってみよう

シミュレータで 1,909 kHz の妨害局を入れ、観測端子 C で 455 kHz に 2 局が重なるのを見てください。IF 帯域幅を 1 kHz まで絞っても妨害が残ることを耳で確かめます。次に RF 同調の 2 段目を入れ、ミキサ直前のスペクトルで 1,909 kHz の線が沈むのを見ます。余裕があれば局発を下側の 544 kHz に切り替え、鏡の位置がどこへ移るかを計算してから確認してください。

名前をつける

局発を挟んで希望局の反対側、同じ 455 kHz だけ離れた周波数を、影像周波数と呼びます。鏡に映った像、という意味で、イメージ周波数とも言います。影像周波数の電波による混信が影像周波数混信、略して影像混信です。そして、影像周波数を減らすために変換前に置く同調回路や高周波増幅器のことを、プリセレクタと呼ぶことがあります。「前もって選ぶ」という意味です。第7回の表で、入口の同調回路の担当を「離れた周波数」と書いておきました。隣の局は IF が、鏡の向こうの局は入口が受け持つ。この分担が今日はっきりしました。入口の同調回路は帯域幅が局ごとに変わって隣接局を切るには向きませんが、910 kHz も離れた影像周波数を落とすには十分なのです。

影像周波数(上側局発)
f_{\mathrm{image}} = f_{\mathrm{LO}} + f_{\mathrm{IF}} = f_{\mathrm{RF}} + 2 f_{\mathrm{IF}}

局発から中間周波数だけ上。局発自身が f_RF + f_IF なので、受信周波数から見ると 2 f_IF 上。「2 倍」を忘れると局発周波数と間違える

教材の数値で
999 + 2 \times 455 = 999 + 910 = 1909\ \mathrm{kHz}

希望波 999 kHz に 455 kHz の 2 倍を足す。まず 2 × 455 = 910 を出し、それを 999 に足す

どちらも同じ中間周波数になる
|1454 - 999| = |1909 - 1454| = 455\ \mathrm{kHz}

希望波と局発の差も、影像周波数と局発の差も 455 kHz。ミキサは差しか作らないので、この 2 つを区別できない

局発を受信周波数より低い側に置いた場合は、鏡の位置も反対側へ移ります。局発 544 kHz なら、影像周波数は 544 − 455 = 89 kHz、つまり f_RF − 2 f_IF です。試験の問題文はたいてい「局部発振周波数は受信周波数より高い」と断ってあるので、f_RF + 2 f_IF を使います。

同じ希望局 999 kHz に対し、上側局発では影像が 1,909 kHz、下側局発では 89 kHz になることを 2 本の周波数軸で比較した図。
局発を下側へ置くと鏡も動く。鏡は局発を挟んで反対側にできる

2 段目の同調回路でどれだけ減らせるかも、式で見積もれます。単一の同調回路の減衰は、中心周波数からのずれと Q で決まります。

段間にバッファを置いた 2 段と直結の 2 段を対比し、減衰を足し算できるのは互いに影響しないときだけであることを示した図。
2 段で 74 dB になる条件。負荷で曲線が変わる直結では単純な足し算にならない
単一同調回路の減衰(1 段)
\frac{|V|}{V_0} = \frac{1}{\sqrt{1 + Q^2\left(\dfrac{f}{f_0} - \dfrac{f_0}{f}\right)^2}}

f_0 は同調周波数 999 kHz、f は妨害局 1,909 kHz。f/f_0 ≈ 1.911、f_0/f ≈ 0.523 で差は約 1.388。Q = 50 なら Q 倍で 69.4、電圧比はほぼ 1/69.4 で約 −37 dB。2 段なら約 −74 dB(段間の結合が理想的なとき)

影像周波数混信を減らす方法

無線技士の女性の先生が、ホワイトボードに描いた周波数軸の前に立っている
先生の挿絵。周波数軸の図を前に、局発の両側に同じ距離で並ぶ 2 つの局を指して説明している

試験ではこう出る

試験ではここ

3アマと陸特、工学Aで、影像周波数の計算は定番です。「中間周波数 455 kHz、受信周波数 7,100 kHz、局発は受信周波数より高い」なら、局発は 7,555 kHz、影像周波数は 7,100 + 2 × 455 = 8,010 kHz です。今日の 999 + 910 = 1,909 kHz と同じ手順で、中間周波数を 2 倍するのを忘れないこと。陸特では「影像周波数混信を軽減する方法で誤っているもの」が出ます。高周波増幅部の選択度を上げる、トラップを入れる、中間周波数を高くする、は正しく、中間周波増幅部の利得を下げる、だけが誤りです。工学Aでは、高周波増幅器の役割として影像混信の軽減と信号対雑音比の改善を挙げる文脈で問われます。

ひっかけ

f_RF + f_IF は局発の周波数、f_RF + 2 f_IF が影像周波数です。選択肢には両方の数値が並ぶので、「影像は 2 倍」と声に出してから計算してください。もう 1 つ、「影像混信は中間周波増幅器の選択度を上げれば防げる」は誤りです。変換後は同じ周波数に重なるので、対策はミキサより前か、中間周波数そのものを変えるかしかありません。

今日の結果

今日の結果

  • 聞こえたもの 1,909 kHz の妨害局が IF フィルタを素通りして希望局に重なった。RF 同調を 2 段にすると妨害局の声が消え、希望局だけになった
  • 見えたもの 局発 1,454 kHz を挟んで 999 kHz と 1,909 kHz が同じ距離にあり、ミキサでどちらも 455 kHz になった。IF 帯域を絞っても分離できず、変換前の同調曲線なら 70 dB 以上落とせた
  • まだ困ること 妨害は減ったのに、遠くの弱い局は音が小さくて、検波器がうまく働かない

次回は、IF フィルタの後ろに増幅器を足して、弱い信号を検波する前に育てます。ただし、強い局を入れると今度は増幅器が飽和します。「ちょうどよい範囲」の狭さを体験する回です。

この回で解けるようになる問題

本文の「例題No.」は公益財団法人日本無線協会が公表している CBT 方式の国家試験の例題、「過去問」は同協会の公表試験問題です(日本無線協会 試験問題。同協会の利用条件に基づき掲載)。「オリジナル」は当サイトの作問です。

3アマ ・ ブートラボ オリジナル問題 無線工学 No.1 問23

中間周波数が 455〔kHz〕のスーパヘテロダイン受信機で 7,100〔kHz〕の電波を受信しているとき、影像周波数の値として正しいのは次のうちどれか。ただし、局部発振周波数は受信周波数より高いものとする。

この問題を解く
二陸特 ・ 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.3 問24

スーパヘテロダイン受信機において、影像周波数混信を軽減する方法で、誤っているのはどれか。次のうちから選べ。

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3アマ ・ ブートラボ オリジナル問題 無線工学 No.2 問23

中間周波数が 455〔kHz〕のスーパヘテロダイン受信機で 21,200〔kHz〕の電波を受信するとき、局部発振器の周波数として正しいのは次のうちどれか。ただし、局部発振周波数は受信周波数より高いものとする。

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4アマ ・ 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.2 問17

次の記述の[ ]内に入れるべき字句の組合せで、正しいのはどれか。 シングルスーパヘテロダイン受信機において、[A]を設けると、周波数変換部で発生する雑音の影響が少なくなるため、[B]が改善される。

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