無線通信ブートラボ
第9回 / 全16回 無線工学

妨害対策は「どこで何を止めるか」

テレビやラジオへの妨害の問題は、フィルタの名前を4つ覚えただけでは取れません。妨害の正体が基本波か高調波か、止める場所が送信側か受信側かを先に決めると、肢は機械的に切れます。

12分 確認問題 3問 図 7枚 この回で取れる問題 8問
この回のゴール

妨害の原因と対策の場所を問題文から読み取り、LPF・HPF・BEF のどれをどこに入れるか、どの対策が逆向きかを選べる。

この回でつくる

妨害の正体(高調波・基本波の混入・強い妨害波)と、止める場所(送信機側・受信機側)を読み取って、入れるフィルタや正しい対策を選ぶ問題。混変調のような現象名を選ぶ問題も、この回で取ります。

STEP 1まず1問、見てみる

先生
先生

フィルタの名前より先に、「何を止めて、何を通したいか」を周波数で見てね。

問題例題No.1 工学 問24(要旨)

アマチュア局が出した 435 MHz 帯の基本波が、地デジ(470〜710 MHz)のアンテナ直下型ブースタに入り込み、テレビが映らなくなった。地デジアンテナとブースタの間に入れればよいものはどれか。

  1. 1低域フィルタ(LPF)
  2. 2トラップフィルタ(BEF)
  3. 3SWR メータ
  4. 4ラインフィルタ

ここで多い間違いは、「アマチュアの電波が悪さをしたのだから、送信機の対策でよく見る LPF」と反射で選ぶことです。

この問題で止めたいのは 435 MHz、通したいのは 470〜710 MHz。止めたいほうが、通したいほうより少しだけ低いところにあります。LPF を入れると何が起きるかを、名前ではなく「どこからどこまでを止めるか」で考えないと、この肢は切れません。

もう一つ、問題文には止める場所も書いてあります。アンテナとブースタの間、つまり受信する側です。送信機の高調波対策とは場所が逆です。

今日の問題はすべて、二つの問いから解きます。何が邪魔をしているのか。そしてどこで止めるのか。この二つが決まれば、フィルタの種類はほぼ自動で決まります。

先生が「発生源」と「侵入先」の二枚の札を見比べている挿絵。
先生の挿絵。フィルタを選ぶ前に、妨害の発生源と侵入先を確かめる

STEP 2覚えること

先生
先生

「低域」「高域」は通すほうの名前。「止めるほう」と読んだら全部逆になるわよ。

まずフィルタの4種類です。名前の「低域」「高域」は、通す側を言っています。ここを「低域を止める」と逆に読むのが、いちばん多い失点の原因です。

4種類のフィルタ

通すもの止めるもの試験でよく出る使い道
LPF(低域フィルタ)遮断周波数より低い周波数遮断周波数より高い周波数送信機とアンテナの間に入れ、高調波を落とす
HPF(高域フィルタ)遮断周波数より高い周波数遮断周波数より低い周波数テレビのアンテナ端子に入れ、短波(HF)の基本波を落とす
BPF(帯域フィルタ)決めた帯域だけ帯域の外の上側と下側必要な帯域だけを取り出す
BEF(帯域除去フィルタ・トラップ)決めた帯域以外決めた狭い帯域だけ受信側で、特定の妨害波だけを落とす
横軸を周波数、縦軸を通過量とした4枚の小さなグラフ。LPF は低い側、HPF は高い側、BPF は中央の山、BEF は中央のくぼみだけが通過または阻止になっている。
4種類のフィルタの通過特性。色のついた側が「通す」。BEF だけは、くぼんだ一点を止める

次に、妨害の正体を三つに分けます。問題文に出てくる言葉で、どれに当たるかを決めてください。

妨害の正体は三つ

  • 高調波 送信機が、基本波の整数倍の周波数も出してしまうもの。7 MHz の送信なら 14 MHz、21 MHz…に出る。145 MHz の第4高調波は 145×4=580 MHz で、地デジの 470〜710 MHz の中に入る。悪いのは送信機なので、送信機側で止める
  • 基本波の混入 送信機は正しい周波数しか出していないのに、近くのテレビやブースタが強い基本波を受け止めきれない。悪いのは受信側の弱さなので、受信側で基本波だけを止める
  • 強い妨害波による混変調 受信機の増幅回路が強い妨害波で直線的に動けなくなり、希望波に妨害波の変調が乗り移る。AM ラジオの受信障害(BCI)の説明で出る現象名

送信機側の対策から整理します。高調波は基本波より高い周波数です。高いほうを止めて低いほう(基本波)を通すのは LPF なので、送信機とアンテナの間に LPF を入れます。

遮断周波数は基本波より高くします。基本波まで止めたら、送信そのものができなくなるからです。7 MHz の送信機を1つのバンドだけで考えるなら、7 MHz は通り、14 MHz の第2高調波は十分に落ちる位置、つまり 7 MHz と 14 MHz の間に置きます。

LPF のほかに、送信機の筐体を確実に接地してしゃへいを良くすること、終段とアンテナとの結合を疎にすること、空中線電力を必要以上に上げないことも、高調波の漏れを減らす方向の対策です。

筐体を「絶縁」する、電力を「大きくする」という肢は、どちらも逆向きです。電力を上げれば高調波も一緒に強くなります。

送信機からLPF、アンテナへと右向きに並んだブロック図。下に周波数軸のスペクトルが2段あり、LPFの前は7・14・21 MHzに棒が立ち、LPFの後は7 MHzの棒だけが残っている。
送信機側の高調波対策。LPF の遮断周波数を 7 MHz と 14 MHz の間に置くと、基本波だけがアンテナへ行く

次は受信側の対策です。基本波の混入は送信機の故障ではないので、送信側に LPF を入れても止まりません。テレビやブースタの入口で、妨害波の周波数だけを止めます。どれを使うかは、止めたい周波数と通したい周波数の位置関係で決まります。

受信側でどれを入れるか

  • 止めたいほうが、ずっと低い HF(短波)の基本波がテレビに入った。テレビの電波は VHF・UHF でずっと高いので、低いほうを止めて高いほうを通す HPF をテレビのアンテナ端子に入れる
  • 止めたいのが、通したい帯域のすぐ隣の一点 435 MHz が、地デジ 470〜710 MHz のすぐ下にある。その周波数だけをくぼませる BEF(トラップ)を入れる
  • 入れる場所 アンテナとブースタの間(ブースタの前)。ブースタが妨害波で先に飽和してしまうと、その後ろにフィルタを入れても遅い
地デジアンテナ、BEF、ブースタ、テレビが左から順に並んだ図。BEFの下に周波数軸があり、435 MHzだけが深くくぼみ、470〜710 MHzの帯は通っている。ブースタの後ろに置いたBEFには×印。
受信側の対策。435 MHz だけを落とす BEF を、ブースタの前に入れる
先生がホワイトボードに周波数軸を描き、435 MHz に×印、470〜710 MHz に「通したい」の帯を書いて指している挿絵。
先生の挿絵。止めたい 435 MHz が通したい地デジより低いので、LPF では逆になる

最後に、肢に混ぜられるダミーを片付けておきます。どれも「その妨害を止める部品」ではありません。

肢に混ぜられるダミー

送信機自体の波形の異常も、この分野でときどき出ます。電信送信機の出力波形の「見た目」と原因を組にして覚えます。

送信波形の異常4種

波形の見た目原因・起きること
キークリック立上りと立下りが急すぎて角ばる電けんを押した・離した瞬間に、広い周波数範囲に「カチカチ」という妨害が出る。キークリック防止回路で波形の肩をなだらかにして防ぐ
チャタリング符号が途切れるリレーの接点が跳ねる
寄生振動頂部に細かい振動(ギザギザ)が重なる本来と違う周波数で発振している
電源容量の不足頂部が右下がり送信中に電源の電圧が下がっていく

例題No.3 工学 問25 は、頂部に細かい振動が重なった波形図から原因を選ぶ問題で、正答は寄生振動でした。

電信の出力波形の包絡線を4つ並べた図。キークリックは立上りと立下りが垂直に角ばる。チャタリングは立上り付近で波形が細切れになる。寄生振動は頂部に細かいギザギザが重なる。電源容量不足は頂部が右下がりになる。
送信波形の異常4種。角ばる・途切れる・ギザギザ・右下がり、の4つの見た目で区別する

STEP 3肢の切り方

先生
先生

正解を探すより、確実に違う肢から消すほうが速いの。測る道具と電源の部品が最初の的よ。

冒頭の例題No.1 工学 問24 を、肢を1つずつ切って解きます。測定器と電源用の部品を先に外し、残った2つを周波数の位置関係で比べます。

例題No.1 工学 問24 を1肢ずつ切る

  1. ✕
    肢1 低域フィルタ(LPF)

    LPF は低いほうを通して高いほうを止める。止めたい 435 MHz を通し、通したい地デジ 470〜710 MHz を止めてしまうので、完全に逆。

  2. ○
    肢2 トラップフィルタ(BEF)

    435 MHz 付近だけをくぼませ、地デジの帯域は通す。挿入場所もアンテナとブースタの間で、受信側の対策として筋が通る。

  3. ✕
    肢3 SWR メータ

    給電線の定在波比を測るだけの測定器で、435 MHz を止めない。

  4. ✕
    肢4 ラインフィルタ

    電源線用の部品。アンテナから入る 435 MHz には効かない。

例題No.2 工学 問24 は同じ場面の穴埋めで、[A]にフィルタ、[B]に「減衰」か「増幅」を入れます。[A]は上と同じ理由で BEF。[B]は、妨害波を増幅したら障害がひどくなるだけなので「減衰」。BEF と減衰の組合せの肢3が答えです。

次に、送信側の問題として例題No.3 工学 問24 を解きます。要旨は「送信機の高調波がアンテナから出ないように[A]を用いる。その遮断周波数は基本波周波数より[B]」です。

例題No.3 工学 問24 を1肢ずつ切る

  1. ✕
    肢1・2 [A]が HPF の肢

    止めたい高調波は基本波より高い周波数。高いほうを通す HPF は逆向きなので、[B]を見るまでもなく切れる。

  2. ✕
    肢3 LPF・遮断周波数は基本波より低い

    遮断点が基本波より下だと、基本波まで落としてしまい送信できない。

  3. ○
    肢4 LPF・遮断周波数は基本波より高い

    高調波を止めて基本波を通す。7 MHz の例なら、遮断点は 7 MHz と 14 MHz の間。

先生
先生

「誤っているもの」を選ぶ形も同じ。対策の向きが逆になっている肢を1つ探すだけよ。

同じ型の残りを一言で

  • オリジナルNo.1 工学 問25(高調波による TVI の送信機側の対策で誤り):LPF の挿入、筐体の接地としゃへい、終段とアンテナの結合を疎にする、はどれも高調波を減らす向き。空中線電力を大きくする肢4だけが高調波も一緒に増やす向きで、これが誤り。
  • オリジナルNo.3 工学 問25(穴埋め):LPF と接地の組合せ(肢3)。HPF と絶縁はどちらも逆向きとして切れる。
  • 例題No.1 工学 問25(他の無線局の受信設備に妨害を与えるおそれがあるもの):蓄電池の使用、電源フィルタの使用、送信電力の低下は、どれも妨害を減らすか関係のない話。妨害を増やすのは高調波の発射だけで、肢4。
  • 例題No.2 工学 問25(現象名):強い妨害波の変調が希望波に乗り移るのは混変調(肢1)。平衡変調は SSB 送信機で搬送波を消す回路の名前、過変調は送信機で変調度が 100 % を超えることなので、場所が違う。

STEP 4ひっかけ

先生
先生

LPF の文字を見ても反射で選ばないで。止めたいほうが高いか低いか、先に印をつけてね。

ひっかけ

LPF は「低域を通す」フィルタです。「低域を止める」と読んだ瞬間に全部逆になります。筐体は接地(絶縁ではない)、電力は上げない。混変調は受信機の中、過変調は送信機の中で起きる現象です。

組合せは三つだけ覚えれば足りる

入れる場所入れるもの
送信機の高調波送信機とアンテナの間LPF(遮断周波数は基本波より高く)
HF の基本波がテレビに入るテレビのアンテナ端子HPF
地デジのすぐ下の 435 MHzブースタの前(アンテナとブースタの間)BEF(トラップ)
先生が「送信機の高調波→LPF」「HFの基本波→HPF」「435 MHzの基本波→BEF」の三枚のカードを受講者に見せている挿絵。
先生の挿絵。妨害の正体と場所が決まれば、入れるフィルタは三組のどれか
試験ではここ

妨害の問題に計算はありません。問題文を読んだら、まず「基本波」か「高調波」かに印をつけ、周波数の数字を二つ(止めたいもの・通したいもの)拾います。次に「送信機とアンテナの間」「アンテナとブースタの間」など場所の語に印をつけます。ここまで来れば肢は機械的に切れるので、1問1分以内で済ませ、計算問題に時間を回してください。

STEP 5自分で解く

先生
先生

3問とも、まず「何が邪魔か」「どこで止めるか」を書き出してから肢を見てね。

確認問題

7 MHz 帯で運用している送信機から 14 MHz の第2高調波が出て、他の局に妨害を与えた。送信機とアンテナの間に入れるものとして、最も適切なものはどれか。

確認問題

HF 帯で運用を始めたところ、隣家のテレビ受信機に障害が出た。調べると、原因は送信機の高調波ではなく、基本波がテレビのアンテナ入力に入り込んだものだった。隣家の側で行う対策として、最も適切なものはどれか。

確認問題

アマチュア局の 435 MHz 帯の基本波が、地デジのアンテナ直下型ブースタに混入して受信障害が起きた。対策として誤っているものはどれか。

STEP 6今日のまとめ

今日おぼえたこと

  • LPF は低域を「通す」。送信機の高調波は、送信機とアンテナの間の LPF で止め、遮断周波数は基本波より高くする
  • 基本波の混入は受信側で止める。HF の基本波ならテレビのアンテナ端子に HPF、地デジのすぐ下の 435 MHz ならブースタの前に BEF(トラップ)
  • 送信側の補助の対策は、筐体の接地としゃへい、結合を疎に、電力を上げない
  • 混変調は受信機の中で妨害波の変調が乗り移る現象。過変調・平衡変調とは別物
  • キークリック(角ばる)・チャタリング(途切れる)・寄生振動(ギザギザ)・電源容量不足(右下がり)

次回はアンテナです。波長 300/f から長さを出し、半波長ダイポールと八木・宇田アンテナの形から指向性を読みます。

本番の問題この回で取れるようになった問題

「例題No.」は公益財団法人日本無線協会が公表している CBT 方式の国家試験の例題、「過去問」は同協会の公表試験問題です(日本無線協会 試験問題。同協会の利用条件に基づき掲載)。「オリジナル」は当サイトの作問です。

日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.1 問24 アマチュア局から発射された 435〔MHz〕帯の基本波が、地デジ(地上デジタルテレビ放送 470~710〔MHz〕)のアンテナ直下型受... 解く → 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.1 問25 無線局から発射された電波が、他の無線局の受信設備に妨害を与えるおそれがあるのは、次のうちどれか。 解く → 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.2 問24 次の記述の[ ]内に入れるべき字句の組合せで、正しいのはどれか。以下から選べ。 アマチュア局から発射された 435〔MHz〕帯の基本波... 解く → 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.2 問25 AM ラジオ受信機に、希望波と異なる周波数の強力な妨害波が加わると、希望波が妨害波の変調信号によって変調され、BCI を起こすことがあ... 解く → 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.3 問24 次の記述の[ ]内に入れるべき字句の組合せで、正しいのはどれか。 (1) 送信機で発生する高調波がアンテナから発射されるのを防止するた... 解く → ブートラボ オリジナル問題 無線工学 No.1 問25 送信機の高調波が原因で生じたテレビ受信障害(TVI)に対し、送信機側で行う対策として、誤っているのは次のうちどれか。 解く → ブートラボ オリジナル問題 無線工学 No.2 問25 短波(HF)帯のアマチュア局の基本波が、近所のテレビ受信機のアンテナ入力に混入して受信障害を起こした。受信機側の対策として、テレビのア... 解く → ブートラボ オリジナル問題 無線工学 No.3 問25 次の記述の[ ]内に入れるべき字句の組合せで、正しいのはどれか。 送信機の高調波が原因でテレビ受信障害(TVI)が生じた場合、送信機側... 解く →
次の回へ第10回 アンテナの形・長さ・電流分布を読む周波数から半波長・1/4 波長の長さを出し、半波長ダイポール・ブラウン・八木・宇田アンテナの性質や延長コイル・バランを選ぶ問題を自分で解ける。