無線通信ブートラボ
第11回 / 全16回 無線工学

給電線と伝搬を現象から選ぶ

給電線の問題は「それは給電線の仕事か、アンテナの仕事か」、伝搬の問題は「HF の話か、VHF の話か」で、肢の半分が消えます。SWR と電離層の名前を、起きる現象と結びつけて覚えます。

11分 確認問題 3問 図 6枚 この回で取れる問題 8問
この回のゴール

同軸ケーブルの性質・SWR の値、跳躍距離・Es 層・フェージング・空電、VHF の通信距離の延ばし方を、現象の説明から選べる。

この回でつくる

給電線(同軸ケーブル)に求められる条件と特性インピーダンス・SWR、電離層・跳躍距離・スポラディックE層・フェージング・空電、VHF の通信距離を延ばす方法を、現象の説明から選ぶ問題。

STEP 1まず1問、見てみる

先生
先生

最初に「HF の話か、VHF の話か」を決めて。それだけで肢の半分が消えるの。

問題例題No.3 工学 問28(要旨)

超短波(VHF)帯の通信において、通信距離を延ばす方法として誤っているものはどれか。

  1. 1アンテナを高くする
  2. 2アンテナの放射角を高角度にする
  3. 3鋭い指向性のアンテナを使う
  4. 4利得の高いアンテナを使う

ここで迷う人は、短波(HF)の感覚が混ざっています。短波は空へ向けて出した電波が電離層で反射して遠くへ届くので、「空へ向ければ遠くへ行く」という絵が頭に残りやすいのです。

ところが VHF は通常、電離層を突き抜けてしまいます。どの周波数帯の、どの伝わり方の話なのかを先に決めると、肢はすぐ切れます。

この回は前半で給電線、後半で伝搬を扱い、どちらも「その現象で何が起きるか」から肢を選びます。

先生が SWR メータの針が1を指しているのを指差している挿絵。
先生の挿絵。整合がとれたときの SWR は 0 ではなく 1

STEP 2覚えること

先生
先生

給電線は運ぶだけ、電波を出すのはアンテナ。給電線から電波が出たら、それは損失なの。

給電線の仕事は、送信機の電力をアンテナまで、なるべく減らさずに運ぶことです。電波を出すのはアンテナの仕事で、給電線から電波が出るのは損失であり、妨害の原因にもなります。

給電線に求められる四つの条件

  • 導体の抵抗損失が少ない
  • 絶縁物の中で失われる誘電損が少ない
  • 送信電力の高い電圧に耐える絶縁耐力がある
  • 給電線から電波を出さず、外からの誘導も受けない

アマチュア無線でいちばん使う給電線は同軸ケーブルです。中心の内部導体を絶縁物が包み、その外側を網線の外部導体が覆い、いちばん外を外被が守ります。

外部導体を接地側として使う不平衡形で、外部導体がしゃへいになるので放射も誘導も少ないのが利点です。

同軸ケーブルの特性インピーダンスは、内部導体と外部導体の寸法比と、絶縁物の誘電率で決まります。アマチュア無線機では 50 Ω、テレビ受信では 75 Ω のものが多く使われます。

ケーブルを長くしても特性インピーダンスは変わりません。長さに比例して増えるのは損失(減衰量)のほうです。

先生が長さの違う2本の同軸ケーブルを持ち、どちらにも「50 Ω」の札が付いていることを見せている挿絵。
先生の挿絵。長くしても特性インピーダンスは 50 Ω のまま。増えるのは損失
同軸ケーブルの断面図(内部導体・絶縁物・外部導体・外被)と、その横に送信機からアンテナへ向かう進行波と、アンテナから戻る反射波を矢印で描いた図。
同軸ケーブルの断面と、進行波・反射波。不整合だと反射波が戻り、定在波ができる

給電線とアンテナのインピーダンスが合っていない(不整合)と、アンテナに届いた電力の一部が反射して送信機側へ戻ります。

行きの進行波と戻りの反射波が重なると、給電線の上に電圧の高い所と低い所が並んだ定在波ができます。その最大と最小の比が定在波比(SWR)です。

定在波比(SWR)
\mathrm{SWR} = \frac{V_{\max}}{V_{\min}}

V_max は給電線上の電圧の最大値、V_min は最小値。反射波がなければ電圧はどこでも同じなので SWR=1。反射が増えるほど大きくなり、先端を開放や短絡にして全部反射させると無限大。最小値は 1 で、0 にはならない

抵抗の負荷をつないだときの SWR
\mathrm{SWR} = \frac{R_L}{Z_0}\quad (R_L \ge Z_0)

Z_0 は給電線の特性インピーダンス、R_L はアンテナ側の抵抗(リアクタンスのない純抵抗の場合)。大きいほうを小さいほうで割る。50 Ω の同軸に 75 Ω の負荷なら 75÷50=1.5、100 Ω なら 2。負荷が 25 Ω なら 50÷25=2

整合が悪いと、送った電力の一部が反射して戻ってくるぶん、アンテナから出る電力が減ります。戻ってきた電力は送信機や給電線の負担にもなります。

そこで送信機とアンテナの間に SWR メータを入れて、SWR が 1 に近いかを確かめながらアンテナの長さや整合回路を調整します。

SWR メータは測るだけの道具で、それ自体が整合をとるわけではない、という点は第9回の妨害の問題でも肢のダミーとして出てきました。

先生
先生

ここから後半の伝搬。層の名前は「反射する」「吸収する」の働きと組で覚えてね。

後半は伝搬です。地上から高さ数十 km より上には、太陽の紫外線などで大気が電離した電離層があり、低いほうから D 層、E 層、F 層と呼びます。

短波(HF)の遠距離通信は主に F 層での反射によるものです。D 層は昼間に現れ、中波や短波を反射せずに吸収する側の層です。

短波を空へ向けて出すと、電離層で反射して遠くの地上に戻ってきます。送信所から、電離層反射波が初めて地上に戻る地点までの地上距離を跳躍距離といいます。

送信所の近くには地表波が届きますが、地表波が届かなくなる所から跳躍距離までの間はどちらの電波も届かず、不感地帯になります。

送信所から地表に沿って地表波が伸び、空へ出た電波がF層で反射して遠くの地点に戻る断面図。送信所から戻る地点までに「跳躍距離」、地表波の届く範囲の外から戻る地点までに「不感地帯」の寸法線。
地表波・F 層の反射波・跳躍距離。地表波も反射波も届かない間が不感地帯

伝搬の現象と、取り違えやすい相手

何が起きるか取り違えやすい相手
スポラディックE層(Es 層)主に夏の昼間、E 層の高さに突発的に現れ、50 MHz 帯などの VHF を反射して、ふだん届かない遠方まで届かせるE 層・F2 層(F2 層は短波の遠距離を担う層で、VHF は通常突き抜ける)
フェージング複数の経路を通った電波が干渉するなどして、受信点の電界強度が時間とともに強くなったり弱くなったりする跳躍(届かない場所の話)・ドップラー効果(周波数のずれ)
デリンジャー現象太陽面の爆発で D 層の電子密度が急に増え、短波の通信が突然とぎれるフェージング(強さが揺れるだけで、とぎれ続けはしない)
空電雷の放電による雑音。低い周波数ほど強く、短波(HF)帯以下で最も受けやすい人工雑音・受信機の内部雑音(VHF 以上で主役になる雑音)

フェージングへの対策もセットで出ます。受信機の AGC(自動利得制御)は、入ってくる信号の強さが変わっても出力の大きさをそろえる回路で、フェージングによる音量の揺れを小さくします。

離れた場所に置いた複数のアンテナで受けて、強いほうを使うダイバーシティ受信も、同じ目的の方法です。

VHF の通常の伝わり方は、電離層で反射されない見通しの伝搬です。

だから通信距離を延ばすには、アンテナを高くして見通せる範囲を広げ、利得の高いアンテナや鋭い指向性のアンテナで電力を目的の方向へ集め、電波は空へではなく地平線へ向けて低い角度で出します。見通し距離の目安は次の式です。

電波の見通し距離(目安)
d\,[\mathrm{km}] \fallingdotseq 4.12\left(\sqrt{h_1\,[\mathrm{m}]}+\sqrt{h_2\,[\mathrm{m}]}\right)

h_1・h_2 は送信と受信のアンテナの高さ〔m〕、d は電波の見通し距離〔km〕。4.12 は大気による電波の曲がりを含めた係数。両方 16 m なら 4.12×(4+4)≒33 km、片方を 64 m に上げると 4.12×(8+4)≒49 km。高さは平方根で効く

左に送受信アンテナの間を直線で結ぶVHFの見通し伝搬、右に夏の昼間のEs層でVHFが反射して遠くへ届く様子を並べた図。高角度に出た電波は電離層を突き抜けて宇宙へ抜ける矢印つき。
VHF はふだん見通し。高角度の電波は抜けていく。Es 層が出たときだけ遠くへ反射する

STEP 3肢の切り方

先生
先生

「放射角を高く」は HF の発想。VHF の問題でこの言葉が出たら、真っ先に疑ってね。

冒頭の例題No.3 工学 問28 を解きます。最初に周波数帯を確認します。VHF なので、通常は電離層で反射されず、見通しで届く伝搬です。

例題No.3 工学 問28 を1肢ずつ切る

  1. ✕
    肢1 アンテナを高くする

    見通し距離が延びるので正しい向き。誤りを探す問題なので外す。

  2. ○
    肢2 アンテナの放射角を高角度にする

    VHF は空へ抜けていくだけで、地上の遠くには届かない。これが誤りで、答え。

  3. ✕
    肢3 鋭い指向性のアンテナを使う

    同じ電力をより遠くまで届ける向きで正しい。

  4. ✕
    肢4 利得の高いアンテナを使う

    肢3と同じく、同じ電力をより遠くまで届ける向きで正しい。

次は給電線の例題No.2 工学 問27。給電線に必要な電気的条件で誤っているものを選びます。

例題No.2 工学 問27 を1肢ずつ切る

  1. ✕
    肢1 導体の抵抗損失が少ない

    電力を「減らさず運ぶ」ための条件で正しい。

  2. ✕
    肢2 絶縁耐力が十分

    送信電力の高い電圧に耐えるための条件で正しい。

  3. ✕
    肢3 誘電損が少ない

    絶縁物の中で電力を失わないための条件で正しい。

  4. ○
    肢4 給電線から放射される電波が強い

    アンテナの仕事を給電線にさせている誤り。給電線からの放射は損失なので、これが答え。

同じ型の残りを一言で

  • オリジナルNo.1 工学 問28(同軸ケーブルで誤り):不平衡形、しゃへいで放射と誘導が少ない、50 Ω や 75 Ω が多い、はどれも正しい。「特性インピーダンスは長さに比例して大きくなる」の肢4が誤り。長さで増えるのは損失です。
  • オリジナルNo.2 工学 問28(完全整合の SWR):反射がなければ最大と最小が等しく SWR=1 で肢2。0 は最小値の取り違え、50 は特性インピーダンスの数字、無限大は全反射のときです。
  • 例題No.1 工学 問28(穴埋め):短波を反射するのは電離層、初めて地上に戻る地点までの距離は跳躍距離で、肢2。大地や焦点距離の肢を切ります。
  • 例題No.2 工学 問28(空電を最も受けやすい周波数帯):低い周波数ほど強いので、短波(HF)帯以下の肢4。
  • オリジナルNo.2 工学 問29(夏の昼間に突発的に VHF を反射):スポラディックE層の肢3。D 層は吸収、F2 層は VHF を通常突き抜け、対流圏は電離層ではありません。
  • オリジナルNo.3 工学 問29(電界強度が時間とともに強弱):フェージングの肢2。デリンジャー現象はとぎれる、跳躍は届かない場所、ドップラー効果は周波数のずれです。

STEP 4ひっかけ

先生
先生

SWR の最小は 0 じゃなくて 1。「反射ゼロなら SWR もゼロ」がいちばん多い落とし穴よ。

ひっかけ

SWR の最小値は 1 です。「整合したら反射が 0 だから SWR も 0」と考えると落ちます。特性インピーダンスは寸法比と誘電率で決まり、長さとは無関係で、ケーブルの直流抵抗とも別物です。E 層とスポラディックE層(Es 層)は別の名前として出ます。跳躍距離は「送信所から反射波が初めて戻る地点まで」の距離で、不感地帯の幅のことではありません。

先生が黒板の伝搬の断面図で、送信所から反射波が初めて戻る地点までを「跳躍距離」として指し、不感地帯と区別している挿絵。
先生の挿絵。跳躍距離は送信所から反射波が初めて戻る地点まで。不感地帯の幅とは別
試験ではここ

伝搬の問題は、まず周波数帯(HF か VHF か)と、問われている量(強さの時間変化か、届く距離か、雑音か)に印をつけます。HF なら電離層の話、VHF なら見通しと Es 層の話、と仕分けるだけで肢の半分は消えます。給電線とアンテナの問題は「それは給電線の仕事か、アンテナの仕事か」で切ってください。

STEP 5自分で解く

先生
先生

3問とも、まず「給電線かアンテナか」「HF か VHF か」を仕分けてから肢を読んでね。

確認問題

特性インピーダンス 50 Ω の同軸ケーブルの先に、100 Ω の純抵抗の負荷をつないだ。このときの定在波比(SWR)として、正しいものはどれか。

確認問題

電波の伝わり方についての記述で、誤っているものはどれか。

確認問題

同じ種類の同軸ケーブルを、長さだけ2倍にして使った。このときの変化として、正しいものはどれか。

STEP 6今日のまとめ

今日おぼえたこと

  • 給電線は損失が少なく、絶縁耐力があり、自分からは放射しないこと。同軸ケーブルは不平衡形でしゃへいされている
  • 特性インピーダンスは寸法比と誘電率で決まり、長さに無関係(長さで増えるのは損失)。アマチュアは 50 Ω、テレビは 75 Ω が多い
  • SWR=V_max/V_min。完全整合で 1、全反射で無限大。純抵抗負荷なら大きいほう÷小さいほう
  • HF の遠距離は F 層の反射、跳躍距離は反射波が初めて戻る地点まで。Es 層は夏の昼間に VHF を反射
  • VHF は見通しが基本。高く・高利得・鋭い指向性・低い放射角で距離が延びる。空電は HF 以下で強い

次回は電気の基礎です。オームの法則、コンデンサ、共振、デシベルを、比例関係と単位だけで解きます。

本番の問題この回で取れるようになった問題

「例題No.」は公益財団法人日本無線協会が公表している CBT 方式の国家試験の例題、「過去問」は同協会の公表試験問題です(日本無線協会 試験問題。同協会の利用条件に基づき掲載)。「オリジナル」は当サイトの作問です。

日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.1 問28 次の記述の[ ]内に入れるべき字句の組合せで、正しいものはどれか。 送信所から発射された短波(HF)帯の電波が、[A]で反射されて、初... 解く → 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.2 問27 給電線に必要な電気的条件で、誤っているのは次のうちどれか。 解く → 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.2 問28 空電による雑音妨害を、最も受けやすい周波数帯は、次のうちどれか。 解く → 日本無線協会 CBT例題 無線工学 No.3 問28 超短波(VHF)帯の電波を使用する通信において、一般に、通信可能な距離を延ばすための方法として、誤っているのは次のうちどれか。 解く → ブートラボ オリジナル問題 無線工学 No.1 問28 同軸ケーブル(同軸給電線)についての記述で、誤っているのは次のうちどれか。 解く → ブートラボ オリジナル問題 無線工学 No.2 問28 アンテナと給電線の整合が完全にとれているときの定在波比(SWR)の値は、次のうちどれか。 解く → ブートラボ オリジナル問題 無線工学 No.2 問29 主に夏季の昼間に突発的に発生し、超短波(VHF)帯の電波を反射して、通常は届かない遠方まで伝搬させることがある電離層は、次のうちどれか。 解く → ブートラボ オリジナル問題 無線工学 No.3 問29 電離層反射波どうし、又は電離層反射波と地表波などが干渉し合うことなどにより、受信点の電界強度が時間とともに強くなったり弱くなったりする... 解く →
次の回へ第12回 電気基礎は比例関係と単位で解く直列の分圧、並列コンデンサの電荷、共振周波数の倍率、電力利得の dB を計算し、クーロン力・電磁誘導・コイルの位相・コンデンサの容量の性質を選べる。